文春オンライン

「日本国紀を買うなんてありえない」“普通の人々”をいないことにする「マスコミの罪」

『ルポ 百田尚樹現象』著者・石戸諭氏インタビュー

2020/07/19

永遠の0』『海賊とよばれた男』などのベストセラーを著し、いっぽうでツイッターでは「中国や韓国への攻撃的な姿勢を露骨に示し、女性蔑視的なツイートも含む」言説を書き散らす百田尚樹。

 この二面性を持つ百田尚樹とはいったいどんな作家で、彼の読者とはどういった人たちなのか。百田氏本人に取材を繰り返すなどしてその実相を詳らかにしたのが『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)である。その著者でノンフィクションライターの石戸諭に話を聞いた。

 

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「間違っているといわれている側になにがあるんだろう」

―――本書は、百田尚樹氏やその周辺人物を取材することで「向こう側」をかいたルポとあります。

石戸諭(以下、石戸) リベラルがやりがちなのは、百田尚樹に対して、あるいは安倍晋三や小池百合子でもいいですが、彼に対してどこがどう間違っているかをたくさん並べていくことです。

 それを『ルポ 百田尚樹現象』では、「間違っているのはわかる。では何故その人物が支持されるんだろうか、間違っているといわれている側になにがあるんだろう」と問いを変えてみた。それが「向こう側に渡っていく」っていうことなんです。 

―――「向こう側」にいくことで見えたのが「普通の人たち」の姿であると。

石戸 先日の東京都知事選でいえば、ベストセラーになっている石井妙子さんの『女帝 小池百合子』(文藝春秋)を読んだ人たちからすれば信じられないことだけれども、小池さんに投票した人が366万人もいるわけです。

 それと同じように百田さんの『日本国紀』の間違いを指摘する人たちもいるけれども、関連本も含めてミリオンセラーになるくらい、それを買う人たちも大勢いる。『永遠の0』にしても右派エンタメとかなんとか言われるけれども累計500万部に達しているくらい、買う人たちがいるのが現実です。

 そうした人たちはまったく無視していい人たちなのか、あるいは右派的なイデオロギーに染まりきった人たちなのか。そうではないわけです。僕からすると、どこにでもいる人たちというのを形容してみるときに「普通の人たち」としかいいようがないんです。

 

―――そうした「普通の人たち」を惹きつける百田尚樹とは?

石戸 平成最大のベストセラー作家ですよね。単に小説が売れているだけではなく、『永遠の0』は映画も大ヒットさせていて、しかも日本アカデミー賞最優秀作品賞も受賞しています。ここ数年は是枝裕和さんの「万引き家族」や、安倍政権を批判する映画だとリベラル界隈で話題になった「新聞記者」も受賞している賞です。 

 小説と映画業界、両方でヒットを生み出した。そう考えると平成期を代表する作家と言っていい。そうでありながら文壇からは疎外されている。その原因は明確で、強烈な右派的イデオロギーの持ち主だからでしょう。 

 百田さんはツイッターを始めて(2010年)、そこでの言説によって花田紀凱さん(当時『WiLL』編集長)に発見され、それで2012年の『WiLL』9月号で民主党政権批判と安倍待望論を書き、10月号では当時は一議員の安倍さんと対談までした。そうやって右派の人たちとつながっていき、安倍さんともつながり、右派論客になっていったわけです。