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奇妙な話を“ギリあるかも”へ…… 新芥川賞作家・高山羽根子が明かす「小説に埋め込む」2つの仕立て

『首里の馬』芥川賞受賞インタビュー

2020/07/18

 満を持しての受賞、と言っていい。

 高山羽根子さんの作品が芥川賞にノミネートされたのは、今回で3度目。第160回の『居た場所』、第161回の『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』は評価が高かったものの惜しくも受賞ならず。今回は『首里の馬』で、みごと第163回の受賞者となった。

 受賞が決まった直後の会見では、

「これでもうあとちょっと書かせていただけるのだなと思えて、ホッとしました」

 という謙虚な感想が第一声だった。

 

 今後への意気込みについては、好きな野球(横浜DeNAベイスターズの大ファン)になぞらえて、

「受賞がゴールという気はまったくしない。新しく別のゲームの『プレイボール』がかかった感じです。せっかくフィールドの端っこに立たせていただけるのだからまたがんばりたい」

 と語った。会見翌日に受賞の感触を改めて尋ねると、

「読んでくださる方はもちろんのこと、いっしょに作品をつくってくださった編集者や関係者の方に、ありがとうございますの気持ちを伝えられる機会になってよかったです。

 いまの率直な気持ちとしては、これからもお見捨てになることなくよろしくお願いします、と切に申し上げたい(笑)」

 と、どこまでも腰が低く自然体で、「書ける歓び」を強調するのだった。

ゆかりのない「沖縄」という場所を選んだのはなぜか

「仕事を終えた未名子が家に戻ってきたとき、大きな生き物は暗くなった庭の、朝とまったく変わらない位置に、同じかっこうでうずくまっていた。」(『首里の馬』より)

 受賞作『首里の馬』は、沖縄が舞台。郷土資料館で資料整理に勤しむ主人公・未名子は、オンラインでのクイズ出題という風変わりな仕事もしている。あるとき住まいの庭に宮古馬が迷い込んできたりと、すこしだけ不思議な出来事が次々と起こり、世界は徐々に変容していく……。

 さまざまな場所を舞台にとり、人と場所の関係性、「場」が発する意味や存在感を問うてきた高山作品が、今作で沖縄を取り上げたというのは少々意外だ。沖縄といえば、小説に限らずさまざまな表現で取り扱われてきた、いわばメジャーな場。すでにいろんなかたちで語られていて、やりにくくはなかったのだろうか?

「たしかに私自身、沖縄にゆかりがあるわけではないんですよね。ただ、ここ数年のうちに何回か沖縄へ足を運ぶ機会がありまして。そういう縁も大切にしたいと思い、創作させてもらいました。

 

 沖縄という土地がさまざまな問題を含むのは承知なのですが、書いてみて思ったのは、私は所詮よそ者であり、他者の視線からしかその土地を眺められないということ。ですから、他者から見ると沖縄という土地や歴史がどう感じられるか、そういう観点から資料館やクイズ業務の周辺などの人物造形なんかができていきました」