触診により付着した汗等の可能性は「極めて低い」
まず、本件アミラーゼ鑑定、DNA鑑定及びDNA定量検査は、「本件犯行を一定程度推認させる。被害者の原審証言を支え、わいせつ被害に遭った事件性を立証するものであれば足りる」とした。
「科捜研の担当職員は相応の専門性、技量、実務経験を有し、通常の手順に従い、適切な器具等を用いて本件アミラーゼ鑑定を行ったものと認められる。鑑定内容について、あえて虚偽の証言をする実益も必要性もなく、その証言内容にも不自然な点は認められないから、その信用性を否定すべき理由はない」(朝山芳史裁判長)
また、触診により付着した汗等により、被害者の乳首に男性医師のDNAが付着した可能性は「極めて低い」と断じた。
「原審は口腔内細胞が含まれた唾液の会話による飛沫が、本件DNA定量検査の結果をもたらした可能性を指摘し、その場面は入院直後の検査と手術台を挟んだ助手との打ち合わせとされているが、入院直後の状態は被害者と座った状態で話していて、被告人の唾液が被害者の左乳首まで飛んで付着するとは考え難い。
また、被告人と助手が手術台の両脇に分かれて立ち、両胸を露出して手術台上に横になっている被害者を挟んで、本件手術に関する打ち合わせをしたことは認められるが、助手の方が被害者の左胸に近かったにもかかわらず、助手のDNA型は検出されていない。本件DNA定量検査の数値の厳密性には疑問を入れる余地があるとしても、会話による唾液の飛沫によることの説明は困難である。原判決の説示は、論理則、経験則等に照らして、不合理なものと言わざるを得ない」(同裁判長)
他の裁判官よりも無罪判決が多い
司法担当記者が意外な説明をする。
「朝山芳史裁判長は変わり者として知られる人です。無罪判決も他の裁判官より多いし、検察官から見ると、天敵というべき人物。ポーカーフェイスで、何を考えているのかも分かりません。その朝山裁判長が逆転有罪判決を出したのだから画期的。『もっと苦戦するかと思った』というのが、検察側の偽らざる本音だったでしょう。
当初、控訴審の判決は4月15日に予定されていましたが、コロナの影響で延期された。その間の5月2日に定年で退官することになった。まさに最後の大仕事、渾身の判決文です。細田啓介裁判長が代読することになりましたが、自分で読み上げたかったでしょうね」