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手術後わいせつ事件 女性患者の胸を舐めた医師が「逆転有罪」になった理由

控訴審判決を詳報する

2020/07/21
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「首尾一貫し、合目的的な行動を取っている」

 A子さんが「麻酔覚醒時のせん妄により、幻覚を見たかもしれない」という争いについては、「カルテに記載がなく、『術後覚醒良好』との記載があり、『不安言動は見られていた』との記載はあるものの、せん妄である旨の記載はない」と指摘した上で、A子さんが事件当日午後3時12分に「たすけあつ」「て」「いますぐきて」というLINEのメッセージを上司宛に送っている事実を重視し、「せん妄による意識障害があったことと相容れない事実」として、A子さんがせん妄の状況下にはなかったものと認定した。

 控訴審で検察側証人として出廷した精神科医が次のように補足する。

「『たすけあつ』と打った時点で間違いに気付き、『て』と修正し、その後に『いますぐきて』という正しい文章を打っている。このように結果を目で見て行動し、知覚と行動のループが繰り返されている。これは、せん妄状態の高度な人においてはあり得ません。

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 左乳首を舐められている間、右手でナースコールを押し続けた点も注目に値します。右手で触ったのは本物のナースコールです。ところが、ナースコールを押しているさなか、A子さんは左胸を舐められている感覚も自覚しています。もし、これがまぼろしだとすれば、左胸にはまぼろしの感覚を、右手には現実の感覚を感じていたことになります。同時進行で幻覚と現実の両方を知覚するなどあり得ません。

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 また、駆け付けた看護師に対して『今のはドクターですか』と確認し、『はい、そうですよ』と会話したことも覚えている。これだけ首尾一貫し、合目的的な行動を取っている人に対し、せん妄だと主張していることはおかしいです」

大きく変わった、被害者であるA子さんの原審証言の信用性

 また、A子さんが男性医師から2回にわたってわいせつ被害を受けたと訴える場面は、午後2時55分と午後3時12分との間とされているが、その頃に男性医師がベッド脇に2回赴いたことは原判決でも認定されている。A子さんの訴えるわいせつ被害がせん妄による幻覚であるとすると、A子さんはこの17分間に男性医師が2回来たことははっきり覚えているのに、その後突然、せん妄状態に陥って性的な幻覚を見たことになり、男性医師が退出する際には再び覚醒するということを2回も繰り返したことになる。

 控訴審判決では「このような短期間の間に覚醒と幻覚が交替して出現するということは、にわかには考え難い」と一蹴した。

 つまり、一審と二審ではどこが大きく違ったのか。一つは、被害者であるA子さんの原審証言の信用性の問題だろう。