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手術後わいせつ事件 女性患者の胸を舐めた医師が「逆転有罪」になった理由

控訴審判決を詳報する

2020/07/21

 東京都足立区の病院で2016年、手術直後の女性患者の胸を舐めたなどとして、準強制わいせつ罪に問われた男性医師(44)に対する控訴審判決で、東京高裁は7月13日、一審の無罪判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。被告側は即日上告した。

事件の現場となった足立区内の病院 ©︎諸岡宏樹

資料の再鑑定は不可能ではない

 判決によると、男性医師は自身が執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の患者であるA子さん(当時31歳)が手術後の診察を受けるものと誤信して、抗拒不能の状態にあることを利用し、病院のベッドの上に横たわるA子さんの着衣をめくって左乳房を露出させた上、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をしたとされる。

「A子さんは被害直後、証拠を残さなければならないと思い、看護師が体を拭こうとするのを断り、警察官が来るまで左乳首をそのままにしていた。そこから男性医師のDNAが大量に出た。この際に科捜研はDNA鑑定の資料としてガーゼ1片を使い、半分は残余資料として警察署に返還している。なぜか世間に誤解されているが、再鑑定は不可能ではありません」(捜査関係者)

 DNA定量検査の結果では、A子さんの左乳首付近には「1.612ng/µl」のDNAが付着していたという。一審で検察側証人として出廷したDNA鑑定の専門家は「被害者のDNAの100倍以上の被告人のDNAが付着していたということになる」と証言した。

 ところが、科捜研の担当職員が実験ノートに当たるワークシートに鉛筆書きしており、ケシゴムで消して書き直した箇所もあったことから問題視され、「刑事裁判の基礎資料としてふさわしくない」「検査者としての誠実性に疑念がある」と批判を浴びることになり、その信用性が争われることになった。なお、原審は「1.612ng/µl」という結果自体は問題ないことを認めている。

A子さんの証言をもとにした事件時の状況。この病室には、カーテンで区切られたベッドが4つ置かれていた。医師はA子さんの「右胸の傷を見る」と言いつつ、あえて傷から遠い左側の乳房の方に立って、A子さんの着衣をめくったという ©文藝春秋

「ニキビを潰す癖やヒゲを抜く癖もあるので……」

 男性医師はA子さんの左乳首に自身のDNAが多量に付着していたことについて、一審の公判で次のように述べている。

「事件当日は起床してから手を洗っていない。午前中、多数の患者を診察したが、それでも手を洗っていない。当時は慢性の鼻炎でくしゃみを連発し、口の周りをぬぐう癖があった。また、ニキビを潰す癖やヒゲを抜く癖もあるので、時々出血する。それらのDNAが付着する可能性もあった」

 また、手術の直前には両胸が露出した状態のA子さんを挟んで、マスクを着けない状態で助手とディスカッションしたと説明し、その際に両胸を触診し、左右の乳首を両手でつまんだことなどもDNAが付着した原因としてあげている。

 その結果、一審判決では「そうすると、いささか決定打には欠けるが、『疑わしきは被告人の利益に』の観点から、唾液の飛沫が乳頭付近に付着する可能性があるということになる」という理由で無罪になったのだ。

 だが、控訴審判決はこれらの事情をすべて否定するものだった。