文春オンライン

自動車業界のオワコン化に見る「魅力あるモノづくり」という宗教の終焉

何を価値として提供し、どう収益を上げていくのか

2020/07/23

 日本のお家芸であった自動車業界ほか製造業も、他の産業同様にコロナにおいてなかなか手ひどいダメージを負ってしまいました。

 さっきロイター通信を見てたらドーンとカルロス・ゴーンさんの写真が出てきて「なんだなんだ」と思ったら、日産とルノーの決算を見て嬉しそうにDISっていました。逃げてったくせになに言ってんだと煽りたくなる気持ちも湧き上がりますが、まあ、実際決算内容はクソですからね。言われてもしょうがないね。

日産とルノーの決算は「惨め」─ゴーン被告=仏紙
https://jp.reuters.com/article/nissan-ghosn-idJPKCN24L00T

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自動車事業の延長線上にどんな未来を思い描こうとしているのか

 我が家も赤ちゃんが一人で座れるようになったので、業務での移動のための車とは別に家庭用の車を買い替えようかといろいろ車サイトを物色しているんですが、これといって「すごい欲しい」という感じの車が見当たらないんですよ。まあ、もともと私自身があんまり車に関心がないからというのもあるのでしょうが、車に乗って快適な家族生活を送るというイメージがなかなか湧かないのもまた事実です。

 もちろん、車自体が価値を生むのではなく、家族で移動した先が楽しければいいわけだし、車そのものは安全で、かつ経済的であってくれればよいという割り切りもあります。自動車というハードそのものに期待するものは少ないんですよ。

©iStock.com

 ところが、自動車会社各社がSDGsだ、エコカーだと言っている間に、ちょっと前まで死にそうだったテスラ社が株価爆騰しておりました。なんかバブルっぽい気もしますが、コロナ後に経済環境が大きく変わっていくぞというところで、いわゆる古き良き製造業としての自動車産業よりも、より部品点数が少なく電気自動車(BEV)としてのストーリーが分かりやすい、実質的にはIT企業のようなテスラ社に関心が集まるのは仕方のないことなのかもしれません。

トヨタ自動車がSDGs強化を宣言:社長が決算発表で-オルタナ
http://www.alterna.co.jp/30928

コロナショックでトヨタよりもテスラの株価が急上昇している理由
https://diamond.jp/articles/-/243688

「自動車業界は変わらなければならない」と一口で言うのは簡単ですが、いままで培ってきた技術や、モノづくりのための膨大な資産が新しい潮流への変化を鈍らせ、夢のない製造業が未来を顧客に示せないまま過剰な競争で埋没していく姿は物悲しいものがあります。人工知能(AI)だよ、MaaSだよ、自動運転だよ、モビリティIoTだよと先進的な技術をまとってはいるけれど、業界が取り扱うのはあくまでも車であり、車が主人公。まあ、それはそうなんでしょうけれども。

 別にトヨタ社にロケットを飛ばして有人飛行をやって欲しいというつもりは微塵もないのですが、いままでやってきた自動車事業の延長線上にどんな未来を思い描こうとしているのか、途方もない何かに挑戦しているという雰囲気はあるのかという、そういうソフトが欠けているように思うんですよ。