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「動物と同じ目線で生きたい」 わな猟を選んだ猟師の“山との向き合い方”

千松信也(猟師・作家)――クローズアップ

 8月22日より公開の映画『僕は猟師になった』は、大きな反響を呼んだNHKのドキュメンタリーがもとになっている。2018年放送の、ナレーションを入れない番組「ノーナレ」の「けもの道 京都いのちの森」がそれだ。

 京都郊外の山でイノシシやシカを獲る猟師の千松信也さんに密着した番組だが、本作ではさらに取材を加え、千松さんと家族の暮らしも映した700日の記録になっている。

「動物は、人の気配や匂い、けもの道が荒れるとすぐに変化を察します。ましてや複数の人間が山に入れば猟はさらにやりづらくなる。だから撮影が必要な取材はあまり受けませんでした。監督を務めた番組ディレクターの川原愛子さんは、単に狩猟だけではなく、僕が山とどう向き合っているのかを映像にしたいというお考えで、そういった部分を掘り下げてもらえるならばとお受けしました」

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千松信也さん

「わな猟」とは文字通り罠を仕掛ける猟で、銃や網の猟と同様に免許が要る。千松さんが作る「くくりわな」は、直径12センチほどのワイヤの輪に動物が足を入れると、バネが働きワイヤが足を縛る仕組みだ。罠は木などに固定されているため、その場で逃げられなくなる。

「くくりわなは、蔓や木の枝などの自然物でも作れる。でも、鉄砲だとそうはいきませんよね。自分で完結させられる、だから僕はわな猟を選んでいるんです」

 獲物は、頭部をこん棒で殴り失神させ、心臓付近の大動脈をナイフで切断して血抜きをし、泥を洗い流すとすぐにさばいて、いただく。

「狩猟は、見せ方によっては誤解を受けかねないものです。過去にもテレビの取材を何度か受けたことはありますが、一部を切り取られ、僕が意図しない伝わり方をしたことがありました。残酷だからという判断だったのでしょう。今回、仲間から、よくあそこまで映すことを受け入れたねと驚かれましたが、全体像からでなければ、何かが伝わらないと思うんですよね」

 猟師となって19年。運送業の傍ら、法律で定める年3~4カ月の期間に猟をしている。以前は飲食店に卸していたが、いま獲っているのは家族と知人が食す分だけという。

「草食、肉食、雑食、いずれにしても動物は自分の力で食べ物を探して生きている。僕もそれに近いことを山でさせてもらっているんです。猟期ではなくても、山菜を採ったり山の変化を知るために、山には一年中入っています。僕は動物と同じ目線、同じ環境で生きたいんです」

 千松さんは内臓も骨も、食材として余さず食べつくす。視聴者はそこに日常を重ね、器に盛られたいのちを粗末にしていないか、あるいは、自分の生が在るのは数世代前に同じ営みがあったからと思いを馳せる。それが、番組への反響に繋がったのではないか。

 映画では池松壮亮が語りを務める。だが千松さんが山に踏み入れば、そこはノーナレの世界。劇場で山といきものの息吹を感じることになろう。

せんまつしんや/1974年兵庫県生まれ。京都大学文学部在籍中に狩猟免許を取得。著書に『ぼくは猟師になった』、『けもの道の歩き方 猟師が見つめる日本の自然』などがある。

INFORMATION

映画『僕は猟師になった』
8月22日より、渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開予定
https://www.magichour.co.jp/ryoushi/

「動物と同じ目線で生きたい」 わな猟を選んだ猟師の“山との向き合い方”

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