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息子の活躍を見守り……ホークス・栗原陵矢の母は連絡するきっかけを待っている

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/31
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 プロ6年目にして初めて開幕スタメンを勝ち取り、その試合でいきなりサヨナラ打を放ちヒーローに躍り出た栗原陵矢選手。6月の打率は3割3分3厘! 勢い止まらぬ活躍を見せました。

 しかし、7月中旬頃からバットは鳴りを潜め、苦しい試合も続きました。それでも、打てないときは守備で魅せたり、必死になってチームに貢献しようと前を向き続けました。もがきながらも7月24日の日本ハム戦で自身25打席ぶりに放ったヒットはホームラン! 翌日には満塁ホームラン!! 自ら道を切り開いていくんだという逞しさを見せました。

勢い止まらぬ活躍を見せている栗原陵矢選手

母・ルミさんが感じた息子の成長

「本当やろうか?」

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 栗原選手の開幕からの活躍をそう思いながらも毎日、毎試合、福井県の自宅から見守っているのは栗原選手の母・ルミさん。

 開幕前からアピールを続けてきた息子は“開幕スタメン”入りが濃厚だと新聞やテレビで連日報じられ、注目の的となっていました。活躍が嬉しいのは当然のことながら、「本当やろうか?」と不安な気持ちでいたそうです。

 6月19日——。3か月遅れで迎えた開幕戦。無観客試合のため現地で見届けることはできませんでしたが、テレビ越しにしっかりと目に焼き付けました。プレイボールの瞬間、グラウンドに立っている息子の姿を確認して、ようやく息子が勝ち取った素晴らしい現実を実感しました。

福井の栗原家ではケーキとお赤飯で「開幕スタメン」祝いをしたそうです

「試合が始まってそこにいるっていうのが嬉しいし、感謝です。これからはそれが当たり前になって、どんどんその先が求められていくんでしょうけど、やっぱりまだ私は、プレイボールの時に陵矢がグラウンドにいるっていうのが本当に嬉しいんです」

 噛み締めるように話してくれた母・ルミさん。

「どうしても“今”に目が行ってしまって、しんどいやろうな~とも思うけど、ホークスの中でスタメンで出られていることを思うと、それは何にも代えられない喜びです。(バッティングの)調子が悪くても、その試合の中で何かいいところを見つけて、私自身の気持ちも前向きにと思いながら見ています」

 打てなくて苦しい時期もあります。だけど、ルミさんが一つ一つの出来事に感謝し前を向けるのは「ここに来るまでが本当に大変だったから……」でした。

 栗原選手は入団1年目から度重なるケガに悩まされてきました。最初にケガをした時は、心配で居ても立っても居られず、福井から当時寮があった西戸崎まで様子を見に行ったこともあったそうです。

 3年目に晴れて1軍デビュー。しかし、初めてA組に抜てきされた翌春キャンプでのこと。期待が高まっていた中で左肩を脱臼し、手術を受け全治6か月の診断を受けました。心のダメージも大きかったはずです。それでも、栗原選手は落ち込んだ姿を見せることはなく、声を掛けてくれるファンの方や取材に来た私たちにどんな時も笑顔で対応してくれていました。

 今も、上手くいかないことがあっても、前向きに頑張る姿を見せてくれています。

 母・ルミさんは「胸の内をいちいち言わないのでわからないですけど、無理して元気に見せようとすることもあると思います」と息子のインタビューをテレビ越しに見ながら、表情の奥にある表情を覗いてみていると言います。心の中で「頑張れ」と思いながら母はそっと見守り続けています。でも、以前はケガで野球ができなくて悩んでいたのが、今は野球のプレーのことを1軍の舞台で悩めています。飛躍的にステップアップしているのです。

 また、母・ルミさんはこんなところでも成長を感じたそうです。

「(中村)晃さんみたいな先輩に弟子入りしたいと思ったという姿勢も嬉しかったです。寡黙な先輩と陵矢は全然タイプが違うと思っていたので、陵矢にないところをたくさん学んで欲しいです。野球人としても、人としても。本当に有り難いです」

 現に、中村選手との自主トレが栗原選手の活躍の契機となり、師匠の存在が今も支えとなっているようです。思えば、久しぶりのヒットとなるホームランを放った24日の試合から、打順は4番・中村選手の後ろの5番を務めています。名実ともに背中を追いかけるように、再び勢いを取り戻してきたのです。

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