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フランス近代絵画界のスター・モネとマティスは「絵」に何をもたらしたのか

アートな土曜日

2020/07/25
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 箱根山中の、夏でも涼気に溢れる爽やかな立地に佇むのが、ポーラ美術館。

 ここで、日本ですこぶる人気の高いアーティストが顔を揃えた二人展が開かれている。「モネとマティス−もうひとつの楽園」展だ。

展示風景

戸外のモネ、室内のマティス

 モネとマティスといえば、どちらもフランス近代絵画界のスターと称される存在だが、画風や画題が似ているかといえばそうでもない。

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 まずもって、好んで描いた「場所」が大きく異なる。マティスより30歳年上のモネには、戸外を描いた作品が多い。事物に光がもたらす作用に着目して、印象派の中心人物と目された画家なのだから、これは当然といえば当然。

クロード・モネ《ジヴェルニーの積みわら》1884年 油彩/カンヴァス  66.1×81.3cm ポーラ美術館蔵

 マティスのほうはといえば、屋内を描いた作品が目立つ。彼が探究したテーマは、絵画という平面のなかに、どんな形態を置きどう色彩で埋めていけば、最高度の調和が得られるかというものだった。西洋絵画が何百年にもわたって表現方法を模索してきた「奥行き」や「厚み」をあえて画面から排して、色のボリュームと配置に注力したのだ。そんな大胆な実験を推し進めるには、描く場所を大自然の下より屋内限定としたほうがやりやすかった。

アンリ・マティス《リュート》1943年 油彩/カンヴァス 60.0×81.5cm ポーラ美術館蔵

 ふたりはいずれも、絵画にある種の「明るさ」をもたらした。画面は優しく愉しげで、人気の高さはそのおかげか。ただし、その明るさを得るための手法や考え方は、ずいぶん異なるのだった。

モネは光を見つめ、マティスは究極の調和だけを夢見た

 モネは光のきらめきに誘われるように屋外へ出向き、川や池の水面に光がどう反射しているか、草木の繊細な造形にどのように光が潜り込んでいくのか、大聖堂の石造りのファサードは時間ごとにどんな照らされ方をするのか……。それら現象をつぶさに見て回り、光の振る舞い方を画面に記録していった。

 モネがそうした作業を続けるうえで、重宝したのが庭という存在だった。大自然を凝縮して模した庭なら、多様な光の作用を最も効率よく見て回ることができる。そう考えたモネは、居を定めたジヴェルニーに広大な庭を築き、みずから手入れを欠かさず整え、その庭自体を絵のモチーフにしたのだった。

 自身が丹精を込めた庭で日々描き続けることから生まれ出たのが、モネの代名詞的な存在となった《睡蓮》の連作である。

クロード・モネ《睡蓮の池》1899年 油彩/カンヴァス 88.6×91.9cm ポーラ美術館蔵
クロード・モネ《睡蓮》1907年 油彩/カンヴァス 90.0×93.0cm