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哲学者か変わり者か……ホークス・大竹耕太郎という個性

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/23
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 多数決の原理がはたらく世の中において、アブノーマルな生き方をするのはとても窮屈だ。

 だけどプロ野球という少し特殊な世界で突出する選手はどこか他人と違っていることが多い。成功者になれば、それは「個性」と称賛される。

 また、そこそこ長い間、プロ野球を間近で取材していて感じることもある。

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 人の意見には耳を傾ける選手の方が成功する。なかでも「プロ野球選手でもないクセに」と初めから声をシャットアウトするような選手で上手くいったためしはほとんどない。

 ただ、聞き過ぎも良くない。注目度が上がるほど、期待値が高まるほど色んなアドバイスが送られる。すべて、良かれと思っての事だが、選手本人が混乱してしまうケースはよくある話だ。

 だから、周囲に流されない心を持つ選手が成功する。アドバイスに限らない。食事の誘い一つをとっても、本当は疲れているのに断れないとか、なんとなく行ってしまうような選手は本当の意味での一流にはなれない。一般社会であれば「社交性」も大切な生きる術だが、プロ野球選手にとってはそれが仇となることもある。その意味で特殊な環境だといえるのだ。

大竹というピッチャーに魅力を感じる理由

 大竹耕太郎はちょっと変わり者だ。

 イマドキの選手としてはかなり珍しく、彼はウエイトトレーニングを基本的にやらない。高校生でも150キロを超える投手が全国あちこちで見つかる時代において140キロ前後のストレートで真っ向勝負する。

「筋力を使わずに、骨で動かす」

 特にホークスは筋力トレーニングに重きを置いている球団だ。しかし、大竹は「力」ではなく「しなり」が自分の投球を活かすものだと考えた。

 さらに、自身の考えやトレーニングの意図をこのように説明する。

「今の僕はやみくもに体を鍛えるよりも、順序的に体と脳を整える方が先なんです。ウエイトを否定するわけじゃないし、重要性は分かっています。ただ、今の僕の場合は段階を経て取り組むことで効果大になる。しっかり土台を固めてから、また始めていきたいと考えているところです」

 体と脳を整える――それは一体、どういうことだろうか。

 自分の体を知る練習法も少し風変わりだ。登板日の試合前練習ではでんぐり返りをしたり、逆立ちをしたりして周りをぎょっとさせる。

「体の調子を見るための方法です。三点倒立にしても、自分の感覚と体をチェックするためにやっています。自分では真っ直ぐだと思っていても、実際には傾いていることがある。いまどれくらいズレているのか、そのズレの感覚をどう埋めていくのかを確認しています」

 周りからちょっと浮くかもしれないけど、と苦笑いする。

 が、もちろんピッチングに繋げるためにやっている。しっかり胸を張っていい練習方法だ。

大竹耕太郎 ©時事通信社

 投手の理想は18.44m先の捕手のミットへ、自分の思い通りにすべて投げ込むことである。しかし、それだけの距離の中で勝負をするのだから手元の微差は、捕手のミットでは大差になる。その乱れこそが投手の大敵なのだ。

「去年の僕は一度打たれだすと、歯止めがかからなかった」

 今季はそれを克服することが、大きなテーマだった。

「人間も動物だから、自分を守る為に、自分の中で嫌だとかイライラとか不安や危険を感じると防御反応で興奮しやすくなります。だから、まずは自分が生活の中で何に対して、そのような感情を持つのかを客観的に感じることから始めました。例えば車の渋滞だったり トレーニング中にかかってる大音量の音楽だったり、意外と沢山あります。それらが、体と頭(自律神経)を整えていくと、今まで引っかかってきたものが段々と気にならなくなってくるんです。そういう日常の細かい 事象が集まって大きな苦手は構成される。例えばメットライフの西武戦は特別に感じて緊張してしまうなど」

 大竹を取材する時は、メモだけでは追いつかなくなることが多い。他の選手との物言いが違うし、ときに哲学者のようなことを真面目な顔をしてすらすらと喋る。予測できない話題へと話が進むこともある。

 これまでのプロ野球取材歴の中でも、お目にかかったことのないタイプだ。

 だから、大竹というピッチャーに魅力を感じる。

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