「生まれて初めて霊感のようなものを感じた」
松永らが住んでいたのは、マンションの3階で、階段を上がって白壁の廊下の右側奥にある、クリーム色のドアの部屋だった。
「部屋に入った途端、その光景に捜査員みんなが愕然とした。俺は生まれて初めて霊感のようなものを感じたよ。背筋がゾクッとするといった表現では足りない恐ろしさだった。そこでまず感じたのは、明らかに人間の血の臭い。部屋は真っ暗で、トイレから風呂場から部屋にあるドアというドアすべてに7~8個の南京錠がかけてあって、まさに異様な光景だった。窓はすべて内側からつっかえ棒が釘打ちされており、松永、緒方でさえ開けることはできないような状況なんだ。部屋の片隅には商売ができるほどの量の消臭剤が積まれており、明らかに血の臭いを消すためだと、誰もが直感した」
この家宅捜索の前に、清美さんはあることを証言していたという。
「切断した遺体をミキサーにかけたり、鍋にかけて煮たりという少女の証言は、ガサを打った当時、すでに出ていた。遺体を煮ると、骨と筋肉がほぐれて処理しやすくなるうえ、遺体特有の異臭が消える。しかし、そんなことまで知ってるとは思えなかった。だが、室内があの状況だったので、ガサの終了後に刑事管理官が班長を説得。班長が本部(捜査)一課長に訴えて、本部長指揮事件となった。それにより、本部特捜が(捜査に)入ったというわけだ」
「じつは、別にも殺されている」
また清美さんは、父親が殺害されたと証言した約1週間後に、緒方家の親族が殺害されたことにも言及していた。
「あるとき『じつは、別にも殺されている』と話し始めたんだ。こちらが『全部でどのくらい?』と尋ねると、『6人』と口にした」
こうした詳細が初めて語られたことで、一連の事件捜査において、緒方が自供に転じたことの重要性が改めて認識させられる。
10月26日、松永・緒方の国選弁護団が、「2容疑者同時弁護困難」として、福岡県弁護士会北九州部会に打開策を要請し、全員が辞任する方向に舵が切られた(後任弁護団の選任は11月5日)。