昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載近田春夫の考えるヒット

氷川きよしが自らディレクションした『キニシナイ』のMVが、やたらとカッコよかった――近田春夫の考えるヒット

2020/08/12

『Papillon―ボヘミアン・ラプソディ―』(氷川きよし)

絵=安斎 肇

 いつの間にかCDが配信/データものに取って代わられつつあるこの時代にひとつ実感するのは、シングルという概念のますます古臭くなっていっていることだろう。その先に待っているのが、果たしてチャートの陳腐化なのかどうかはまだ何ともいえないが、ネットなどで見て、面白いなと思った楽曲が、実はシングル盤にはなっていないというケースが増えたのはたしかだ。

 そうした状況と関係があるのかどうかはともかく『キニシナイ』もシングルになっていない。残念なことである。

 ある日TVをつけたら、氷川きよしの最新MVが話題だった。なんでも本人のディレクションで、iPhoneで撮影が行われたのだという。それは興味深い。どんな感じなのかいなと待っていると、動画が始まった。そしたらば、絵も音もやたらとカッコいいのである。それで、これはてっきり次のシングルなのだろうと、早とちりをしてしまった。

 この頁には、始まって以来、取り上げるのは基本的にいわゆる“シングル盤”という暗黙の何かがあった。音源の在り方の変化が進み、もはやそんな悠長なこともいってはいられない時代に、突入した。

 そんなご時勢での夏の合併号SPである。『キニシナイ』一曲のために、氷川きよしの最新アルバム『Papillon』を取り寄せてもらうことにした。

Papillon―ボヘミアン・ラプソディ―/氷川きよし(日本コロムビア)

 何にせよせっかく届いたアルバムだ。勿体ない。『キニシナイ』以外も全部聴くことにした。発表が少し前だったので、何曲かは既に耳にしていたのだが、こうして改めて通して聴くと、いわゆる“コンセプトアルバム”としてのしっかりとした聞き応えがあったとでもいおうか。印象/意味はまた別物だった。

『Papillon』は、演歌歌手氷川きよしがポップスで勝負しようという企画である。そういった場合、ややもすると、お手軽であったり時代感がずれていたりと、本来がポップス中心のリスナーにしてみれば、それこそ“風流”を味わうしかないことも少なくない。これは違った。いちいち、ちゃんと聴かせてくれるのだ。

『キニシナイ』に感じたのも、まさにそのことだった。EDMとして、構成からテンポ、そしてオートチューンも見事に決まったミックスに至るまで、世界基準でのフロア感を満喫させてくれる作りである一方、歌詞には、日本語ならではの響きや意味の面白さが満載で、jpopとしての完成度が大変に高い作品になっているのである。まだチェックしていないDJがいたら、是非ともの検索をお勧めする。

 そして映像だ。先にも述べたように、iPhoneで撮影されたこともあってか、カジュアルな色使いが新鮮だし、何といっても、氷川きよしの動きに“明治座感”ゼロなのには、目を見張るものがある。

 この人は、もはや演歌界の大御所といっていい存在だ。その普段の舞台/仕事内容のことを考えると、これはちょっと他の人には真似の出来ることではないのかも知れぬ。

Papillon―ボヘミアン・ラプソディ―/氷川きよし(日本コロムビア)
デビュー満20周年記念と銘打ったアルバムは、演歌から次のステップということで、ポップス曲を収録。アニメ『ドラゴンボール超』主題歌だった『限界突破×サバイバー』(M5)、GreeeeNによる『碧し』(M9)、水野良樹(いきものがかり)による『おもひぞら』(M10)、氷川きよしが作詩(ペンネーム:kii)、上田正樹が作曲した『Never give up』(M11)、クイーンのカバー『ボヘミアン・ラプソディ』(M14)などさまざまな楽曲を盛り込んだ。

今週の14日間「先ごろ話題になった“上級国民”もそうだけど、庶民のオレらが世間をウォッチしていて気になるのって、持てる人とそうでもない人の“不公平”ってやつだよね。それでいえば、安倍首相、8月のアメリカでのG7で、帰国後2週間の自主隔離が免除されるらしいじゃん」と近田春夫氏。「ぜひ安倍夫妻には成田でバカンスしてほしいね!」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

この記事の写真(2枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー