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若い衆を撃ち殺し、自分の頭を撃ち抜いて死んだヤクザが残した最後の一言

「潜入ルポ ヤクザの修羅場」#27

2020/08/23
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 新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所、そして大阪府西成に居を構え、東西のヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは――著作『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)から一部を抜粋する。

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「もうヤクザの時代じゃない」

 もちろん暴力団という属性は、自らの意志によるものであり、つまりは自業自得である。暴力団を辞め5年経てば、建前上、一般人と同じ権利を得られるのだから、これが差別にあたると考えるのは妥当ではない。

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 全国に広がる暴力団排除条例制定の流れは、もはやとめようがない。第一章でも取り上げたように、2007年4月20日、神奈川県相模原市内の路上で極東会系組員が殺人事件を起こし、自宅である町田市の都営アパートに立て籠もった事件が発生すると、すでに公営住宅へ入居していた暴力団員に対し、住宅の明け渡しを要求する事例が相次いだ。このとき問題となったのが、日本国憲法第14条の第1項だった。

「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 暴力団という特定の団体に所属しているだけで、公営住宅を追い出されるのは、本来、憲法に違反していると考えることもできる。これを巡って広島県広島市では裁判が起きた。明け渡しに応じない組員に対し、広島市側が訴訟を起こしたのだ。2008年10月21日、広島地裁は組員に明け渡しを命じたうえ、憲法14条にも触れた。

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「地方自治法の該当条項に照らせば、市営住宅の適正な供給とその入居者ないし、周辺住民の生活の安全と平穏の確保という観点から、暴力団であることを理由として市営住宅の供給を拒絶することは相当であって不合理な差別であるということはできない」

暴力団に「最低限度の生存権」はあるのか?

 この判例は広く全国のスタンダードとなり、『広島市営住宅判例』と呼ばれるようになった。最高裁まで争ったわけではなくとも、この判例が覆される可能性は少ないと思われ、暴力団側からの提訴も今のところ皆無である。

 これに対し、憲法第25条の解釈は、1982年7月7日の最高裁判例が基準とされている。暴力団であっても最低限度の生存権はあるので、公営住宅からの追い出しは、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という部分に抵触するのではないか?という意見だ。