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エミー賞10冠ドラマ『チェルノブイリ』は、表現が難しい“放射能の怖さ”を「何に」例えたのか?

2020/08/22
 

 昨年、映像業界で最も権威ある表彰の1つ、エミー賞を10部門受賞したドラマ『チェルノブイリ』(全5話/YouTube他で配信中)。史上最悪の原発事故を米国HBOが映像化。迫真のリアリティーで描く社会派ドラマであり、秀逸なエンタメ作品でもある。物語の軸は、所謂“バディ(相棒)もの”。主人公2人は、核物理学者のレガソフ博士と政治家シチェルビナ副議長。どちらも実在の人物だ。

 圧倒的な映像のクオリティーや実力派俳優陣の熱演など見所は尽きないが、私が注目したのは序盤のあるシーン。事故発生当初、危機感のないシチェルビナら政治家たちに向かってレガソフ博士が放射能の危険性を説く場面だ。そこで彼は放射能を“無数の見えない弾丸”に喩える。

「原子炉はウラン235を燃料として使用します。その原子はそれぞれが“弾丸”です。光速に近い速度で飛び、全てを貫きます。……肉体もです」

 わずか1グラムに何兆個もの弾丸が含まれており、それが今、事故現場で300万グラムも燃えていると語る。

「弾丸の多くは100年間飛び続けます。中には5万年間飛び続けるものも」

 私は、これほど平易で簡潔な放射能の説明を聞いたことがない。放射能は目に見えない。それ故、作り手はその描写や説明に頭を悩ます。大真面目に説明すると難解すぎて興醒めする。だが、本作は子どもでも分かる“(見えない)弾丸”という表現一つで、あらゆるシーンの見え方を一変させている。以後、劇中の何気ない風景にも、観客は無数の“弾丸”を見てしまうのだ。

 本作は、原発事故の調査と対策に尽力したレガソフ博士の自殺シーンから始まる。その死の理由は未だ謎だ。最終話のエンドロールでは、レガソフ本人の映像が流れる。ドラマを経てリアルな本人の姿を目にした観客は、生前の顔つきや表情から、彼の信念や人柄を感じ取るに違いない。

INFORMATION

『チェルノブイリ』
https://www.star-ch.jp/drama/chernobyl/

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