『NAVIGATOR』(SixTONES)/『Nights Cold』(山下智久)
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ジャニーズ事務所が新体制となり、音的には何か変わったのか、相変わらずなのか。当初はわからなかったが、今回、SixTONES、そして山下智久の最新シングルを聴くにおよび、なるほど思うところもあった。感じたままに、筆を進めていこうかと思う。
落ち着いて考えてみれば、ジャニーさんが死んじゃってから当分の間はまだ残務というのはあった訳なのである。そうした端境期からようやくの脱出が叶ったのかなと……。
まず実感したのはそのことなのだった。というのも、この2曲にはたしかに共通するものがあり、そして、かつてのジャニーズのシングルに、こうした質感/方向性の曲調は、それほどみられなかったような気もしたからである。
いずれにせよ滝沢秀明には滝沢秀明の哲学がある。ない訳がない。ただ、それが果たしてジャニー喜多川の意を踏襲するものなのか、新たなる美学を打ち出してゆくことになるのか? どうやら後者らしい。私はそう合点した。
2作に通底するのは、例えば“クール”であるとか、あるいは“大人”といった形容の似合うところか。
繰り返しになってしまうが、そのような感想は――良くも悪くも――旧ジャニーズ関連の音からは、あまり得られなかったものである。
時代は否が応でも変わってゆく。進んでゆく。アイドルに求められる条件、魅力の要素もまた然り。ましてやこんなご時世だ。どうせなら伝統を守ることに汲々とするよりは、未来に向けてイメージを一新し打って出た方が賢明だ。そうタッキーが考えたかは、無論不明であるけれど、この新曲2枚に見出せる一番の傾向はといえば、kpopへの接近(マーケティング)である。
“アメリカを中心とする世界市場”で、影響力をますます強めているのが韓国系のグループだが、いやそれどころではない、むしろ彼らこそがトレンドの主導権を握っているのでは? とさえ思えてしまう場面が、最近一層増した。
翻ってジャニーズだが、ドメスティックなマーケットではいまだ揺るぎなき安定感を誇るにせよ、国際的知名度は韓国勢の足元にも及ぶまい。
まさに先行き不透明ともいえる、昨今の我が国の音源産業全般を俯瞰したとき、しばらくは客層の拡充は見込めないだろう。商売を国外にも求めて行かずば、未来は大変だ。
そうしたなか、韓国音楽界がこれまでとってきた戦略の、結果的成功は無視出来ぬ。背に腹はかえられまい。
てなことをあれこれ思っているうち、ふと、これからのジャニーズが向かおうとしている先は、マジで実はアメリカ/英語圏なのかもしれないなぁと、そんな気がしてきた。まぁ、たしかに山下智久が――このシングルを聴いても――その急先鋒であるといってしまえば、そうなのだが、ソロではなくBTSに勝てるような、強力なグループをアメリカで育てていくプランが、秘密裡に進行してる? なーんてことは、ないすよね。
今週のコロナミクス「みんな新型コロナで大変なことになっているけど、イギリスではコロナのせいで休業した企業の人は給料の8割が補償されるらしいじゃないの。働かなくてもそれだけ貰えたら、御の字な人もいるんじゃん? アベノマスク受注代理店も濡れ手で粟のようだったし」と近田春夫氏。「この状況が続いて欲しいって思っている人もいるかもね!」
ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。
