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意志ある老後は「オムツ外し」から始まる…介護学校に通い始めた70代女性作家の決意

2020/10/20
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 『週刊文春WOMAN』2019年GW号で70歳にして子、孫と離れて田舎のサ高住に入ったことを綴ったノンフィクション作家、久田恵さんの原稿には大きな反響があった。そして今、介護ヘルパーの勉強を始める。(肩書、年齢等は掲載時のまま)

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 栃木県那須町のサービス付き高齢者住宅(サ高住)「ゆいま~る那須」で暮らし始めて1年10か月が過ぎた。私は70歳になったのをきっかけに、これからの人生を自然の中で静かに暮らそうと、移住してきたはずだった。が、人生は常に想定外に展開する。

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久田 恵さん

 気が付けば、私は介護ヘルパーの学校に通い始めている。公共交通が不十分で、学校までは車で行く。この地では、運転免許証の返上どころではないのが高齢者の現実なのだ。

 そんな山里の廃校になった小学校で2019年11月、「日本オムツ外し学会」総会なるものが開かれた。

 オムツ外し学会とは何か? 提唱者は三好春樹氏。長年にわたって介護現場から「介護とはなにか」を発信し続けてきた理論家で、介護にかかわってきた人の間ではよく知られた存在だ。三好氏は特別養護老人ホームに勤務していた頃、半ば強制的にオムツをつけられた人がたった数日で尿意の感覚をなくし、オムツが外せなくなっていくのを目の当たりにした。そこでオムツの高齢者たち一人ひとりと丁寧に向き合い、尿意を回復させ、オムツを外すことに成功した。

 オムツが外れた人はみな、生き生きとしてくる。それは人間の尊厳の回復でもあった。そこで「オムツ外し」は介護の原点であると、1988年、学会を立ち上げたのだ。

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 学会では排泄ケアだけでなく、介護される側の高齢者を主体にしようとする新しい介護の実践が報告される。今回も学会の「集まれ!那須へ」との呼びかけに、全国からユニークな活動を展開する介護関係者が100人ほど集結。そこで現場発の実践事例が報告され、議論がなされた。

 三好氏からは「認知症は病気ではない」という新しい視点から、介護現場での対応方法についての提言がなされた。その他、東京三鷹で「看取りの家」をやっている看護師さん、介護保険外サービスに特化した「ヘルパー指名制」の事業所を立ち上げた実践、介護に演劇を取り入れる試みなどなど。

 さまざまな報告を聞きながら、私は長きにわたった自分の介護の日々を思い起こし、新しい介護のウェーブが本流となる日がきっと来るのだと、泣き出したいような思いにさせられていた。私の人生に「介護が降ってきた」のは、39歳のときだった。まさに青天の霹靂。晴れ渡った5月の朝、母が目の前で崩れ落ちる姿が今もくっきりと記憶に刻まれている。