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虫になることで見えてくる生命のサバイブ法とは?──川村元気×養老孟司『理系。』対談

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 大きな危機や逆境において、いかに難局を乗り越え、危機の先にある大きなチャンスをものにできるか。

 映画『告白』『悪人』『君の名は。』など数々のヒット作を企画製作し、小説家としても『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』などのベストセラーを発表、現在公開中の『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の脚本も手がける“生粋の文系”の川村元気さんは、その答えを優れた理系人に求めた。

川村元気さん

「文系代表」の川村さんが理系のトップランナー15人と対話を重ねた『理系。』が文春文庫から刊行される。川村さんは、「今読み返すと、預言者のように彼らが未来を教えてくれていた」と振り返る。

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 伝説的な任天堂のゲーム開発者・宮本茂さん、数学的映像クリエイターの佐藤雅彦さん、天皇陛下の執刀医・天野篤さん、そして、ロボットクリエイターから、バイオ学者、人工知能研究者、統計学者まで最先端の理系人が登場する『理系。』の中から、解剖学者の養老孟司さんとの刺激的なやり取りの一部を公開する。

 400万部突破の『バカの壁』など数々の著作で、自然から乖離する人間の思い上がりを痛烈に批判してきた養老さん。二人の共通点は、ときどき虫になること――!?

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理系。』(文春文庫)

川村 養老さんはどの著書を読んでも「今ある文脈化されたもの、自分の脳が考えていることさえ絶えず疑え」とおっしゃっていて、はっとさせられます。

養老  「世の中のことは20%くらいは違っているかもしれない」と疑ってないと、えらいことになりますよ。

川村 SF映画の世界は養老さん的というか、『マトリックス』のように、「今いる世界は虚構である」ということが比較的表現されているように思います。絵画でもエッシャーやマグリットの絵を見ていると、脳が壊れた瞬間に見えているものを描いている気がしますね。

養老 しかも、面白いのはそういうときって一瞬にして世界が変わるんです。例えば急性に統合失調症が発生すると、歩いている人が人形に見えて……とよく言います。

川村 まさにSF映画ですね。

養老 でも僕はそれ、なんとなくわかるというか、57歳で東大の教授を辞めたときに本当に世界が変わって、突然目の前が明るいんだもん。びっくりしたよ、もう(笑)。