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【追悼】内海桂子さん 最後まで“本物の芸”を追求し続けた「ただ喋ればいいわけじゃないのよ」

漫才コンビ「内海桂子・好江」で知られる、漫才協会名誉会長の内海桂子さんが8月22日に亡くなっていたことがわかった。97歳だった。内海さんは2年前、月刊「文藝春秋」にてノンフィクション作家の柳田邦男さんと対談。現役最高齢の漫才師として「生涯現役」に懸ける思いと、「本物の芸」が生まれる瞬間について語っていた。当時の記事からの一部抜粋を再公開します。(初公開:2018年7月28日。なお、記事中の年齢、日付、肩書などは掲載時のまま)

 一人で颯爽と舞台に現れ、歌って踊り、そして喋る。三味線を片手に自作の都都逸(どどいつ)を披露すれば、観客からは大喝采――。内海桂子さん(95)は、国内最高齢の現役芸人として、今も忙しい日々を送っている。

ツイッターのフォロワーは47万人

 内海さんは16歳で漫才師デビューを果たし、1950年に弟子だった故・内海好江さんと漫才コンビ「内海桂子・好江」を結成。時事ネタを巧みに取り入れた芸風で人気を博した。

 1997年に好江さんが61歳で亡くなった後はピン芸人として活動。「ウッチャンナンチャン」「笑組」「ナイツ」など、若手漫才師の師匠としても知られており、現在は漫才協会名誉会長も務めている。

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 私生活では、77歳だった1999年に、24歳下のマネージャー・成田常也さんと結婚。夫と二人三脚で仕事をこなしている。2010年に始めた「ツイッター」には、現在47万人を超すフォロワー(読者)がおり、ちょっと辛辣でユーモアあふれる文章が、若い世代からも支持を集めている。

 ノンフィクション作家の柳田邦男が、内海桂子の「本物の芸」と、健康の秘訣に迫った(出典:「文藝春秋」2018年7月号)。

内海桂子さん ©文藝春秋

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年寄りっぽくしていられない

柳田 作家や画家ではなく、舞台の上で芸を披露する方で、100歳近くになっても現役でいるというのは、私の知る限り、内海さん以外、聞いたことがありませんよ。

内海 まあね。私は今年、96歳になりますけど、こんな仕事をしているというのは珍しいでしょ。たまに同じ世代のおばあちゃんに「もう、そんな所(舞台)なんて行かなくていいわよ」って言われるの。でも、私はそんな時こう言い返すんです。「冗談じゃないよ」って。

柳田 実は、私も同じ考えなんですよ。80歳を超えて病気や怪我をしたりすると、周りの人は「休みなさい。もっと楽にしなさいよ」と言いますよね。でも、そんな時にぼーっとしていたら、そのままボケてしまうし、脳が弱ってしまう。そういう時こそ、仕事をしたくなりますよ。仕事をすることこそ、元気の証ですからね。

「死ぬまでやりますよ」

内海 この間、ちょっと具合が悪く、「肺炎になったかも」と思って病院に行ったら入院させられたんですよ。お医者さんは私をしばらく入院させるつもりだったみたいだけど、3日で出てきちゃった。病院の中で年寄っぽくしていられない性質(たち)なんですよ。

柳田 まさに「わが道」を突き進んでおられますね。何歳まで現役を続けられる計画ですか。

内海 死ぬまでやりますよ。私に「仕事をやめろ」と言う人は今のところいませんしね。最敬礼するくらい尊敬できる人に、「もうお前はいいよ」って言われたら辞めるけど、そういう人もいないしねえ。

 本当なら引退する頃合いかもしれませんけど、もし私が辞めてしまったら、同じような芸ができる人がいなくなってしまう。だから、生きている限りは続けたいのです。