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「日本人はなぜ“民主の女神”周庭にハマる?」香港メディアも驚く“日本的ガラパゴス感覚”とは

2020/08/31
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 先日、ちょっと興味深い光景を目にした。2020年8月23日夜、新宿駅東南口で在日香港人ら約50~60人が手をつなぎ、香港民主化運動への支援を訴える「人間の鎖 香港の道」と呼ばれるイベント(主催:Stand with HK @ JPN)が開かれた際のことだ。

 イベント参加者らの主張のひとつは、8月10日に国安法違反で逮捕された女性活動家・周庭(アグネス・チョウ)の無罪を訴えるものだった。

8月23日夜、新宿駅東南口で香港民主化運動への支援をうったえる在日香港人ら。彼らの故郷ではすでに違法になってしまった「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、革命のときだ)」というスローガンも登場 ©安田峰俊

 だが、そのときの香港人スタッフの掛け声の発音が面白かったのだ。当初、彼らは「フリー・アッネース!(Free Agnes!)」と、流暢な英語発音で周庭の英語名を叫んでいたのが、途中から「あ・ぐ・ね・す(A・GU・NE・SU)」と母音をはっきり強調する日本語式のカタカナ発音に変えたのである。

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 英語をそのまま発音しても、大多数の日本人にはあまり通じないことを一瞬で見て取った、香港人らしい語学センスの高さを感じさせる行動だろう。さておき、このメッセージが同胞の香港人向け以上に、日本人に向けて強く発信されていることがよくわかる光景だった。

「逮捕中は欅坂46『不協和音』を思い出した」

 国安法の施行前まで香港自決派の政党・デモシスト(すでに解散)のメンバーだった活動家・周庭が8月10日に逮捕された事件は、日本の世論に非常に大きな衝撃を与えた。

 ツイッターでは彼女の釈放を求める「#FreeAgnes」のハッシュタグがトレンド入りし、テレビや新聞・週刊誌などが大きく報道。彼女が11日深夜に保釈された後は、拘置所内で欅坂46の『不協和音』の歌詞を思い出して耐えていたとするエピソードも大きく伝えられた。

 さらに12日には、自民党の中谷元らが前月末に結成したばかりの「対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)」が緊急の抗議集会を開催する。このJPACは西側諸国の国際議連「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」の日本版で、現時点ではほぼ香港問題を中心に声を上げる立場にある。

周庭らが逮捕されたことを受けて開かれた「対中政策に関する国会議員連盟」(JPAC)の抗議集会で、日本からの香港民主化運動への支持を訴える在日香港人活動家たち。©安田峰俊

 JPAC緊急集会の壇上では、議連提唱者の1人である国民民主党の山尾志桜里が「香港国家安全維持法に基づくジャーナリスト・民主運動家の逮捕に関する声明」を読み上げたが、ここでも周庭の逮捕がまっさきに言及された。香港の23歳の女性活動家の受難が、日本の政治をも動かした瞬間だった。

井上雄彦や百田尚樹よりも「有名人」

 周庭は外見的魅力と流暢な日本語もあって、これまで「民主の女神」のあだ名で日本のメディアにしばしば取り上げられてきた。日本の一般人には、彼女こそが香港デモを指導するリーダーなのだと考えている人も多く、日本国内で刊行される香港デモ関係の書籍では、かなりの割合で彼女の顔が帯にプリントされている。