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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

緒方純子のおい(当時5歳)殺人の嫌疑を否認する松永太の言い分とは

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #25

2020/09/22

genre : ニュース, 社会

第2の理由:“動機”がない

 続いて嫌疑がないことの二つ目の理由として、“動機”について挙げているのだが、ここでは松永が捜査官から聞いたとされる、緒方の供述が紹介されている。

〈被疑者は捜査官から、「純子は、『親(緒方隆也・智恵子〔仮名=当時33〕夫妻)を殺された子供は仕返しするから佑介を殺した。松永に佑介を施設に預けるとか提案してもことごとく拒否され、佑介を殺すしか方法がないと考えるしかなかった』という趣旨の動機を述べている」と聞かされている〉

 この緒方の供述に対して、「被疑者」である松永は真っ向から否定していた。

〈被疑者は、「自分は責任を背負い込むことが嫌いなので、純子に佑介を施設に預けるのはだめだとか言ったことはない。純子から佑介を施設に預けようかと聞かれたことはあったが、責任回避のため自分から何も返事をしなかった。」〉

(写真はイメージ) ©️iStock.com

 さらに松永はこの一件について弁解する。

〈被疑者は、「そもそも隆也は病死であり、智恵子も隆也が殺したのであり、自分が佑介の親を殺したことはない。また、佑介には、小さい子供に本当のことを言うのは酷だと思ったことなどから、隆也と智恵子は生きていると芝居を打っていたので、佑介から親を殺したと自分が恨まれる理由もない。」〉

“動機”がなければ“嫌疑不十分”

 これらの松永の“主張”を受け、弁護団は、もし松永が佑介くん殺害を共謀したと認定するのならば、〈被疑者固有の動機ないし共通の動機が解明されるべきである〉として、〈現場にいた純子らよりも、現場にいなかった被疑者の方により強固な動機があったのでなければ、被疑者が純子に殺害を指示することはにわかに考え難い。しかしながら、被害者を殺す動機などないという被疑者の弁解を排斥するに足りる証拠は、なんら発見されていない〉と訴えている。

 これも先の“アリバイ”と同様に、検察側は松永に“動機”があると証明する明確な証拠はない、ということであり、「動機がない」とする松永の主張が、虚偽のものであると覆す証拠がない以上は、“嫌疑不十分”であると訴えるものだ。

(写真はイメージ) ©️iStock.com

第3の理由:“指示・命令”はしていない

 さらに松永弁護団は、嫌疑がないことの三つ目の理由として、“指示・命令”ということに触れている。

〈新聞報道及び被疑者が捜査官らから伝え聞いたところによれば、純子は、「被疑者から明確な指示命令は無かった。ただ、被疑者から自分も通電をされ、被疑者を恐ろしいと感じており、被疑者の意向には逆らえない雰囲気だった。したがって、被疑者から佑介を殺すように仕向けるようなことを言われたので、絞首行為に及んだ」旨述べているようである。

 これに対し、被疑者は、「純子は自分の指示がなくても純子の考えで、孝(仮名、緒方の父=当時61)、花奈らに通電していたのであり、自分の指示でいやいや通電していたわけではない。共同生活の金銭管理も、自分ではなく純子がしていたし、純子が買い物の際など自分の意見に従わないことも多々あったから、純子が自分に隷属していたようなことは一切ない。純子とは内縁の夫婦として口げんかもし、純子が反発してヒステリーを起こし、物を投げるようなこともあった。純子は、自分が指示をすれば自分の思い通りに動くような女ではないし、自分の意図を汲んで行動するようなこともしない。」と弁解している〉