昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

SDGs特集 持続可能な未来へ向けて私たちには何ができる?

2020/09/24

PR

国際社会がクリアすべき17の目標「SDGs」。その1つ「14:海の豊かさを守ろう」についてサイエンスライターの保坂直紀さんにお話を伺った。レジ袋の有料化は海洋プラスチック問題の解決につながるのだろうか?

世界の海はプラスチックごみだらけ

 きれいなはずの海岸を埋め尽くすペットボトル、ウミガメの鼻に刺さったストローなど、センセーショナルな映像でも注目を集める海洋汚染問題。だが、その実態はまだわかっていないことばかりだ。

「1950年頃からプラスチックの使用量が増え、当時からごみとなったプラスチックが海中の生き物に巻きつく、海鳥が食べてしまうなどの問題は報告されていました。ある論文によれば1950年から2015年の間に世界中で生産されたプラスチックはおよそ83億トン。63億トンが同期間に廃棄されていますが、リサイクルされているのはわずか9%の6億トンのみ。焼却処理が8億トンで、残りはほとんどが埋め立てや自然界への流出と考えられています」

 2015年に公表された別の論文によれば、1年間に800万トン(自家用車の重さを1.5トンと考えると毎日1万5000台分)のプラスチックごみが海に流れ込んでいるという。

※米ジョージア大学などの研究グループが、海岸線を持つ世界192か国から海に流れ出たプラスチックごみの量を様々な状況証拠から推計したもの。私たちが出したプラスチックごみの約3%に当たる。

「これまでに海に流れ込んだプラスチックごみの総量を考えると、すでに海面のあちらこちらにたくさん漂っていてもおかしくないはずですが、現状は99%の行方がわかっていません。“ミッシング・プラスチック”と呼ばれる問題です」

 プラスチックの一部は劣化、細片化されたマイクロプラスチックとなり、海の生物が誤食するなどしてその体内に入り込んでいると考えられる。近年、こうした生体への悪影響を論じられることが多くなったマイクロプラスチックだが、その害についてもまだわかっていないことが多い。

「難燃剤や着色剤など、プラスチックの添加物の中には生き物にとって有害なものもあり、それが体内に残留、蓄積されているという報告があります。当然、それらの魚介類を口にすることで人体への影響も考えられます。それ以外にも、私たちは日常的にマイクロプラスチックを様々な形で体内に取り込んでいます。大気中にも多くマイクロプラスチックが存在し、家庭内でも洗濯で化学繊維から発生したものなどを呼吸で体内に取り入れていることがわかっているのです」

photo by Getty Images
photo by Getty Images

なぜ、今、レジ袋が有料化になったのか

 今年7月、レジ袋が有料化されたことによって、私たちは否応なくこれまでの生活を見直す必要に迫られている。この試みは、海洋プラスチックごみを減少させるために、さらには地球温暖化の抑制につながるCO2の排出量削減、石油資源の枯渇防止のために、どれほどの効果が期待できるのだろうか。

「もちろん、レジ袋だけがプラスチックではありません。国内で出るプラスチックごみのうち、レジ袋の割合は2%ほど。さらに原油の使用用途のうち、プラスチック生産に関わるものは原料と燃料を合わせても1割に満たないと言われます。つまり、レジ袋の使用を控えたところで、その効果はごくわずかです。それでも、私たちはできることから始める必要がある。環境省も、これが即環境問題を解決するものではなく、生活を見直すきっかけとなることが大切だと明言しています」

 一方、微生物によって水と二酸化炭素に分解されるという生分解性プラスチックの研究も進んでおり、大いに期待されている。だが、それが全てを解決するとまではいかないようだ。

「海で分解するもの、土の中で分解されるものなど、生分解性プラスチックにも様々な種類があり、分解されるための条件が異なります。つまり、海で分解されるものが他のところに捨てられてしまえば、通常のごみになります。また、分解に要する時間は短いものの、その過程でマイクロプラスチックが生まれることに変わりはありません。さらに、地球温暖化抑止のために二酸化炭素の発生は好ましくないという問題もあります。たとえば海で分解されるプラスチックを通常の使用でも廃棄物となりうる漁網に使用するなど、利用法はいくつも考えられますが、何にでも応用できるわけではない。過剰な期待をしていいものではなさそうです」

1年間に海に流れ込むプラスチックごみの量は約800万トン(毎日、自家用車1万5000台分)。
1年間に海に流れ込むプラスチックごみの量は約800万トン(毎日、自家用車1万5000台分)。

行動を変えれば世界が変わる

 海はあまりにも広く、いくら海岸でごみ拾いをしたところでまたすぐに別のプラスチックがどこからか流れ着く。生分解性プラスチックにも期待は寄せられるが、決して万能ではない。レジ袋の有料化も、環境問題全体から見ればほんの小さな一歩に過ぎない。一体、自分たちのしていることにどれほどの意味があるのかと、考えれば考えるほど無力感にとらわれそうになるのではないか。

「SDGsの17の目標はどれも大切なことですが、地球上には、解決しなくてはならないことがあまりにも数多くあり、同時にかなえられるわけではありません。たとえばプラスチックを削減すれば、製造に関わる人たちは失職し、貧困につながるかもしれない。あちらを立てればこちらが立たずで、もやもやするのが当然です。けれども、私たちの世代が恩恵を受けるだけ受けて残った課題を、子どもたちの世代に『あとはよろしくね。さよなら』というわけには心情的にいかないでしょう。どこで折り合いをつけてどういう方向へ進むのか、我々が目指すのはどんな社会なのかを一人ひとりが考え、優先順位を考えてゆかなくてはなりません。最も大切なのはつねに関心を持ち続けること、自分ができる身近なことから行動を始めることです」

保坂直紀
Naoki Hosaka
東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所特任教授。サイエンスライター。気象予報士。著書に『クジラのおなかからプラスチック』『海のプラスチックごみ 調べ大事典』『謎解き・海洋と大気の物理』『謎解き・津波と波浪の物理』ほか。最新刊に『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』がある。

2030年までにみんなで目指すSDGsの17のゴール

SDGs 持続可能な開発目標とは?
SDGs(持続可能な開発目標)は、2001年に設定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後を継ぐ新たな行動指標のこと。2015年9月の国連サミットで採択され、MDGsで達成できなかった課題や、国際社会が一致して取り組むべき17の課題と169のターゲットが目標として掲げられている。

Photo:Tomosuke Imai