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連載近田春夫の考えるヒット

主人公が「僕」じゃない! 秋元のNMB48新曲の衝撃――近田春夫の考えるヒット

2020/09/10

『だってだってだって』(NMB48)/『ティーンエイジサンセット』(Hump Back)

絵=安斎 肇

 いまなお、我が地球では、新型コロナウイルスによるパンデミックのおかげで、人々はなんとも鬱陶しい生活を余儀なくされることに甘んじている訳だが、そうしたとき、では、エンターテインメントに何か役に立てること/実効性の期待出来ることはあるのかといえば、今やあまり望みなどかけぬのが賢明だ。いや、むしろ無理と達観すべきか。

 音楽に限っていえば、プロテストだのメッセージだのが、社会に向けて一定の説得力を発揮できたのは、もう、とうの昔の話。少なくとも、もはや今世紀、そんな“美談”はとんと聞かなくなったというのが、実際のところだろう。

 とはいえ、この2020年の、重苦しい、かつて味わったこともないような閉塞感漂う日常というものが、表現者たちの心にも何らかの影を落とさぬ訳もない。私とて例外ではない話ではあるのだが、秋元康の場合はどうなのか? 折しもNMB48の新曲が出たところだというので、丁度いい。聴いてみることにした。

だってだってだって/NMB48(laugh out loud! records)23枚目のシングル。5月中旬発売予定だったが新型コロナの問題で延期、8月の発売に。

『だってだってだって』は、'70年代から連綿と受け継がれてきたフォーク路線、いってみればニューミュージックの流れを汲む曲調の作品だが、16分音符的に細かいところの結構ある符割には、TK以降のjpopの匂いも感じられる。ただ何にせよ、製作サイド的には、冒険するより無難な着地を目指しているのかいなと……? 俺には、そんな風にも映るアプローチだった。

 そして映像だが、こちらも、アイドルものによくありがちな、キャンパスの淡い恋の物語といった風情の、まぁ相当に当たり障りのない演出である……とかなんとかいいつつ歌詞に目をやると、一人称が「私」つまり女性なのである。

 NMB48では、いつもそういう流儀なのかどうかは不勉強にて知らず申し訳ないが、ここのところこのページで取り上げてきたAKB関連で、主人公が「僕」ではない、というシングルは、たしかなかったと記憶する。

 とはいえ、コンセプトの基本は何も変わっていない。お馴染みの、甘酸っぱい“片思いの心情”の吐露である。そこはそれこそ主人公の性別が変わっただけといってもいい。

 なのだけれど、歌詞がすこし女言葉になったというだけで、随分と雰囲気というか景色の見えかたは変わるのだから面白い。女の子たちが“女子を思う男の心境を斟酌して歌う”ことから醸し出される、微妙な気恥ずかしさや、もやもやとしたものは、ここにはあまり感じられないのだ。

 いずれにせよ、最新作の一人称が「僕」ではなかった点は少しは気になるが、まぁ、あんまりコロナは、モチベーションに影響ないみたいだったなぁ。タフだよね秋元康。

 個人的にはね、こんな時こそ気分が上がる(しかも秋元康にしか書けない)、フォーチュンクッキーみたいなの出して欲しかったんだけど……。

ティーンエイジサンセット/Hump Back(VAP/林音楽教室)大阪出身のガールズロックバンド。ボーカル・ギターの林萌々子が全曲作詞作曲。

 Hump Back。

 女子のバンドだが、歌詞の一人称の「僕ら」がしっくりと来る声質が、魅力的だった。

今週のチェンジ「それにしても、今年はミュージシャンにとって厳しいね。嘆いていても仕方ないから、来年に向けて新しいことを考えようと意識を切り替えてるよ。そしてこのコラムもこの5年間担当してきた若者が栄転? するそうで、来週から新しい担当Sさんに交代するんだって」と近田春夫氏。「これまで以上に燃えて書いていきたいと思います!」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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