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連載名画レントゲン

「順に辿れば分かる」キリスト中心の計算された構図とは――エル・グレコ『神殿から商人を追い払うキリスト』

エル・グレコ『神殿から商人を追い払うキリスト』(1600年頃)

2020/09/09

 ドメニコス・テオトコプーロスはクレタ島出身のギリシャ人。そこから通称「エル・グレコ(ギリシャ人)」と呼ばれています。

 この『神殿から商人を追い払うキリスト』を本コラム担当編集者さんは「スクープ・グラビアみたい!」とコメントしてくださったのですが、まさに事件現場。いったいどういう場面なのか、構図を紐解きながら見てみましょう。

 中央にキリスト、両サイドに大勢の人々。キリストが右腕を振り上げていて、その腕と平行に青い布がキリストの体に巻き付いています。つまり、このポーズは強調されていて「注目!」ということ。

混乱した場面なのに“画面の秩序”が保たれている
エル・グレコ『神殿から商人を追い払うキリスト』1600年頃 油彩・カンヴァス

 聖書によると、キリストは過越祭(すぎこしのまつり)が近づいたある日に神殿にやってきたところ、神聖な場所を冒涜する商人たちを見つけて怒り、彼らを鞭で追いやりました。そのシーンと分かるよう、振りあげた腕が強調されているというわけ。

 次に、キリストの両脇に人々が、左右対称の放射状に、まるで4枚の羽を広げたように配置されていますね。この4つの流れを順に辿れば状況が掴めるのです。キリストの左側に立つ腰布(黄色)の男性はキリストの動きを裏返した対照的なポーズで描かれていて目立ちます。その背後に、のけぞったり、前のめりに逃げ惑う人々。中央左下には転がった台。どうやら彼らが追い払われる商人たちのよう。反対に、右側では座ったり直立したりして、静かに様子をうかがう人々が。

 このように幾何学的な配置になっていると、見る人が形状を把握しやすいため、混乱した場面内の関係性を捉えやすく、しかも絵画としての画面の秩序を保つこともできます。よく練られた構成です。