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SDGs特集 持続可能な経営のために 経営に生かすSDGs講座

genre : SDGs

新型コロナ感染拡大によって、日本経済は大きなダメージを受けた。経営再建を迫られる企業にとって、SDGsこそサバイバル戦略の要になる。

経営にSDGsを取り入れるメリットとは

 まずは自己紹介から。わたくしは31年間の行政経験を経たのち、株式会社伊藤園で10年間ビジネスの世界に身を置きました。現在は、プロフェッショナル・サービス・ファームのネットワークであるPwC Japanグループで顧問をつとめています。また、千葉商科大学で教授として教壇に立っています。結果、「産・官・学」3つの局面で理論と実践に携わることになったわけです。

講師:笹谷秀光氏
千葉商科大学教授
CSR/SDGsコンサルタント
東大法卒。1977年農林省入省、農林水産大臣官房審議官等を経て2008年退官。同年伊藤園入社。取締役等を歴任。20年4月より現職。現在、幅広くパネリストや講師として登壇。著書に『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)など。
笹谷秀光公式サイト
https://csrsdg.com/
講師:笹谷秀光氏
千葉商科大学教授
CSR/SDGsコンサルタント
東大法卒。1977年農林省入省、農林水産大臣官房審議官等を経て2008年退官。同年伊藤園入社。取締役等を歴任。20年4月より現職。現在、幅広くパネリストや講師として登壇。著書に『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)など。
笹谷秀光公式サイト
https://csrsdg.com/

 伊藤園時代に取締役などの立場で担当したのがCSR(シーエスアール・企業の社会的責任)でした。企業と社会の関係性を構築する活動です。その後、SDGs(エスディージーズ)も担当することになりました。最近では、新聞やテレビなどでSDGsという言葉を見かけない日はなくなりましたね。これは「Sustainable Development Goals」の頭文字の略語で「持続的な開発目標」と訳されます。

 2015年9月、国際連合で加盟国193か国すべての合意による「我々の世界を変革する‥持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書が採択されました。そこに盛り込まれたものがSDGsです。人・社会・地球などの望ましい未来像を目指すための、貧困撲滅、健康、環境、技術革新、協働などの17の目標と169の具体的活動(ターゲット)によって構成されています。先進国も途上国も、政府も企業も関係者も、全員で自主的に取り組む目標です。

 SDGsでは、企業の「本業力」を使って創造性とイノベーションを起こし、社会課題を解決するという、本業活用が推奨されています。社会課題を解決しながら経済価値を上げるというところに大きな特徴があるのです。

経営にSDGsを取り入れるメリットは、大きくわけると4つあります。

1.企業イメージの向上

 社会にいいことをやっているということが伝わりやすい。この会社は信用できる。この会社に就職したい。そういう企業評価はまちがいなく上がります。

 さらに外部からの評価が上がると、「あ、わたしはいい会社にいるんだな」と社員のモチベーションも上がります。インナー・ブランディングの向上です。

2.社会の課題への対応

 社会の課題にちゃんと対応していくという意味で、社会課題に感度のいい企業になれます。世界で課題解決のために何が求められているか客観的に示されているわけですから、SDGsは企業にとってチャンスリストになります。

 どれが我が社の強みにリンクするのか、チャンスを探せます。そして、ほかの企業よりもいち早くそれに着手することで、競争戦略になっていくわけです。

 同時にこれはリスクでもあります。たとえば目標5の「ジェンダー平等」。これは男女の平等をめざすというものですが、女性の虐待は絶対にゆるさないということも入っています。「我が社は大丈夫だよ」とみなさんよく言うんですが、「じゃあ取引先とか原料の調達先とか、サプライチェーン全体で大丈夫ですか」と聞くと、「いや、そこまで調べていない」と。これは大変なリスクですから、今すぐ確かめなければいけません。つまりSDGsはチャンスリストであるとともに、リスク回避リストでもあるということです。

3.生存戦略になる

 プラットフォーマーといわれる大企業はすでに本格的にSDGsに取り組んでいます。そうなると、その企業と取引している会社、自動車であれば部品企業、流通であれば商品を納めている企業、そのすべてがSDGs化していきます。今後、SDGsへの対応がビジネスにおける取引条件になる可能性があります。それを理解している企業とそうでない企業とでは大きな差がついてくるでしょう。SDGsは企業のサバイバル戦略になってくるのです。

4.新たな事業機会の創出

 SDGsへの取り組みがきっかけで、地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得が生まれます。そこから新たな事業創出やこれまでになかったイノベーションへとつながっていくのです。

5つのステップで好循環が生まれる

 では、具体的にどのようにSDGsを経営に取り入れていくのか。導入の指針になる「SDGコンパス」というものがあります。

 ステップ1は、SDGsを理解する。17の目標と169のターゲットを暗記するというのではなく、まずは仕組みを理解してください。そのためには「5つのP」がいいでしょう。ひとつめのPはピープル(人間)。2つめはプロスペリティ(繁栄)。3つめはプラネット(地球)。4つめはピース(平和)。5つめはパートナーシップ(協働)。この5つの「P」どれもが限界に差し掛かっている。その反省に立って、一刻も早く変革するために、「やるべきことリスト」を目標として洗い出した。SDGsはそういう設計になっているのです。

 それを理解したうえで、ステップ2では17の目標と169のターゲットを並べて、自分の会社と紐づけします。わが社ならこれがいけそうだとか、これはヒントになるなとか、自社との関係で優先課題を決めるわけです。さらに、このテーマで関係者との会話をはじめてみようとか、試しに商品を開発してみようとか、そういうプログラムの目標を決めていきます。数値目標がつくれるものは、数値を決めていくといいですよね。それを経営に組み込んでいくわけです(ステップ3・4)。そしてステップ5。報告とコミュニケーション。これが大切です。 

 日本には、昔から和の精神や「三方良し」(自分良し・相手良し・世間良し)のような商習慣があり、SDGsを加速させるポテンシャルは非常に高い。ところが、これが「くせ者」です。そのせいで「わざわざ外来のSDGsなんかいらない」という議論になりやすいのです。ここが運命の分かれ道になります。「三方良し」はいいのですが、今のところ世界では通用しません。それは“陰徳の美”を良しとして、あえて自分から発信しないことが多かったためです。そこで、わたしは「発信型三方良し」を提唱してきました。「三方良し」の“世間”が、今はSDGsだと考えればいいのです。“世間”の部分にSDGsを入れ込んで発信する。「発信型三方良し」をSDGs化していく。それはかなり強力なものになるのではないでしょうか。日本企業がもう一度ブレークする大きなヒントがそこにあると思っています。

SDGコンパス
経営にSDGsを導入するための指針

事業や経営戦略にSDGsを導入しようというときに使えるツールが「SDGコンパス」だ。図表は国連関係団体が多国籍企業向けに作成したマニュアルを日本企業向けにカスタマイズしたもの。SDGsにどのように取り組んだらいいか5つのステップで示している


STEP1
SDGsは17の目標と169のターゲットから構成されている。まずはその体系と目的を理解しよう


STEP2
17の目標と169のターゲットを自分の会社と照らし合わせてみる。優先すべき課題がみえてくるはず


STEP3
目標は具体的で期限付きのものにしよう。自然と組織内のパフォーマンスが上がってくる


STEP4
統合とは、「組み込む」という意味。効果測定をして、PDCA(Plan→Do→Check→Action)を回していく


STEP5
進捗を様々な方法で外部に発信しよう。そのリアクションが次のステップへと進むきっかけになる

変革の時代、SDGsは“羅針盤”となる

 ステップ5でいま考えていること、やっていることをしっかり伝えていくと、リアクションが出てきます。「いいことやってますね」とか、「我が社も一緒にやらせてほしい」とか、仲間が増えていくわけです。仲間が増えていくことでイノベーションが生まれます。そこでまたステップ2にもどり、新たに優先課題を決め、目標を設定する。こうしてステップをまわしていくのです。

 SDGsは、投資家のみならず、サプライチェーンにおける大手の取引相手からも対応を求められます。SDGsは単なる参照事項ではなく、重要事項と位置付けられるという意味で、「主流化」しているのです。したがって、非上場企業も中堅・中小企業も例外なく、取引先、資金調達、人材確保に関係してくるのです。わたしたちは“SDGsネイティブ”と言っていますが、これからはネイティブスピーカーのようにSDGsを使いこなす若い人材が大学現場からどんどん輩出されることになります。今後就職戦線では、優秀な人材はSDGsを一つのメルクマール(指標)として会社を選択するようになるでしょう。

 今はパンデミックからの「よりよき回復」に向けて、SDGsの羅針盤機能があらためて注目されています。新型コロナウイルス後の「ニューノーマル」は社会の大きな変革を伴います。世界から「置いていかれる」ことがないようにするためには、変革の時代の羅針盤・SDGsをきちんと理解することが大切なのです。

自治体、企業、市民みんなで目指すSDGsの17のゴール

SDGs(持続可能な開発目標)とは……
SDGsは、2000年に設定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後を継ぐ新たな行動計画のこと。2015年9月の国連サミットで採択されており、MDGsで達成できなかった課題や、国際社会が一致して取り組むべき課題を目標としている。17の目標で構成されている。一つ一つのゴールは相互に関係し合っており、全体でみることが必要だ。

photograph:Hideki Sugiyama
illustration:Wataru Yamashita

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