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2050年「CO2排出量ゼロ」を宣言したJR東日本の戦略とは?

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地球温暖化に歯止めをかけるため、一日も早い脱炭素社会の実現を。JR東日本では今年5月、2050年度のCO2 排出量“実質ゼロ”をめざす「ゼロカーボン・チャレンジ2050」をスタートさせた。
※「実質ゼロ」…排出されるCO2と同じ量のCO2を最先端技術等により吸収・回収・利用して事実上ゼロにすること

 JR東日本は2018年7月に発表したグループ経営ビジョン『変革2027』で、社会の一員として果たすべき責任を全うするため、持続可能な開発目標SDGsに積極的にコミットすることを表明。さらに今回、環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」をスタートさせた。2050年度までにCO2排出量「実質ゼロ」を実現するための方策とはどのようなものなのか、プロジェクトの責任者であるJR東日本 総合企画本部 経営企画部次長の笠井浩司さんに聞いた。

「つくる」から「使う」までを、トータルで考える

JR東日本総合企画本部
経営企画部次長・笠井浩司さん
JR東日本総合企画本部
経営企画部次長・笠井浩司さん

――今回新たに「ゼロカーボン・チャレンジ2050」をスタートさせた背景をお聞かせください。

笠井 現在、地球温暖化防止に関して、平均気温上昇を産業革命以前の+1.5℃に抑えるというのが世界の潮流になっています。当社では『変革2027』の中で「2030年度にCO2を40%削減※1」という目標を掲げていたのですが、さらに長期の目標を立てるにあたって、気候変動問題に先進的な各国の目標と足並みを揃えて+1.5℃の達成を目指すのであれば、2050年度にはやはり「CO2排出量ゼロ」にしなければならないという結論に達したんです。CO2排出量ゼロという目標は高すぎるのではないか、という意見もありましたが、現時点で既に達成が見込める目標や、達成手段の分かっている目標は、「目標」とは言えません。達成が容易ではないからこそ、目標として掲げる価値があると考え「ゼロ」としました。

※1 「2030年度にCO2を40%削減」の目標は、2020年5月に「2030年度にCO2を50%削減」に更新

――では、どのようにしてCO2排出量ゼロを実現するのか、その方策をお聞かせください。

笠井 JR東日本の強みというのは、エネルギーを「つくる」~「送る・ためる」~「使う」というネットワークを自前で持っている点です。これをフルに活用します。まず「つくる」。当社は、信濃川に自営の水力発電所、川崎に火力発電所をもっているという他社と違う特徴があります。それに加え、グループ会社とともに風力や太陽光、地熱などを活用した、CO2が発生しない再エネ(再生可能エネルギー)の調査・開発・整備を進めています。既に整備されている再エネや他社で整備した再エネを利用したのでは、当社のCO2排出量は削減されるものの、日本全体で見るとCO2排出量は削減されませんから、自分たちで使う分の再エネは自分たちで整備を進めていきます。そこで発電された電気は、FIT※2を利用していますが、このFIT電気と「トラッキング付非化石証書※3」を組合せ、東北エリアの駅や電車に供給することで、まずは2030年度までに東北エリアのCO2排出量ゼロを目指します。さらに、2050年度までには当社で使用するエネルギーの約30~40%の再エネの開発を目指し、自営水力発電所を加えると約50~60%が再エネとなります。これ以外のエネルギーの大部分を賄う自営火力発電所ではCO2フリー水素発電を目指します。

※2 FIT:再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取る制度
※3 トラッキング付非化石証書:再生可能エネルギーなどのCO
2を排出しない電気が持つ環境価値を取り出し、発電所所在地などの情報を付け加え証書化したもの

“脱炭素”のキーとなるのは、「水素」の活用

笠井  「送る・ためる」は、いままで無駄にしていたエネルギーをためて有効活用しようというものです。電車はモーターで走っていますが、ブレーキをかけるとモーターは発電機になります。そこで発電した電気(回生電力といいますが)は、山手線のように近くに他の電車が走っていれば、トロリ線を通じて電車へ送れるのですが、電車が少ない線区では、電車と電車の距離が離れすぎていて結局捨てることになってしまう。エネルギーを無駄にしてはいけないですから。その回生電力を蓄電池にためておく回生電力貯蔵装置を整備しています。さらに将来に向けて、超電導フライホイール(超電導で浮かせた大型の円盤を回転させ、電気を運動エネルギーとして貯蔵する)の実証実験をしているところです。

 「送る・ためる」に関してのもうひとつ、“脱炭素”のキーとなるのは、「水素」です。高輪ゲートウェイ駅に隣接する当社用地に水素ステーションを2020年8月27日に開所しました。ガソリン等の燃料を使う部分については水素、それもCO2フリー水素に切替えていかなければならない。水素の認知度を高めるとともに水素需要を喚起することで少しでも早く水素社会を実現したい。そのため「使う」ということでは、トヨタ自動車さんと業務連携して、水素を使った燃料電池車両の開発を推進しています。さらに、実用化がすでに進んでいる燃料電池バスの導入など、様々な水素活用を進めています。

8月に開所した水素ステーション。
8月に開所した水素ステーション。
開発が進む燃料電池車両(イメージ)。
開発が進む燃料電池車両(イメージ)。

――「使う」について、列車の取組みを聞かせてください。

笠井 列車では、省エネ車両の導入がかなり進みました。現在では98%以上が省エネ車両に切り替わっています。今後はエネルギーの無駄が少ない効率的な運転の研究を進め、将来の自動運転に反映させていきたいと思います。

――「つくる」から「使う」まで、全体を見ながらトータルで考えられるというのが、JR東日本さんの強みですね。

笠井 そうです。いま手がけている品川の開発プロジェクト「グローバルゲートウェイ品川」も、バイオガスや燃料電池、自立・分散型のエネルギーネットワークといったいろいろな環境技術、エネルギー技術を導入して、街全体として“脱炭素”をめざしています。街づくりのなかで培った技術をどのように当社にフィードバックして応用できるか、このプロジェクトに関わらず、研究機関さんやメーカーさん、エネルギー事業者さんと連携して目標達成に向けた取組みを進めているところです。そのためには、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」ということが大切です。鉄道は、飛行機や自動車にくらべると環境にやさしい乗り物と言われていますが、それでもエネルギーをたくさん使っています。だからこそ、地球温暖化防止に率先して取り組むことで、鉄道の環境優位性をさらに高めていきたいですね。

“脱炭素”の街づくり「グローバルゲートウェイ品川」(イメージ)。
“脱炭素”の街づくり「グローバルゲートウェイ品川」(イメージ)。

提供:JR東日本

photograph:Hideki Sugiyama