文春オンライン

いまこそ振り返るべき“首相選出のジンクス”「ナンバー2昇格に成功なし」「長期政権後は反主流派が偉業」

ポスト安倍を辛口採点 中西輝政氏

2020/09/05
note

 突然の安倍晋三首相辞任表明を受け、「ポスト安倍」レースが続いている。現在、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長が出馬表明しているが、コロナ禍、東京五輪、経済対策など課題が山積する中で、次期宰相には誰がふさわしいのか。

「文春オンライン」では、各界の識者に連続インタビューを行い、「ポスト安倍候補」を5点満点で採点してもらった。今回は、京都大学名誉教授で国際政治が専門の中西輝政氏に聞いた。

京都大学名誉教授の中西輝政氏 ©️文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

菅義偉 ★3.2 「歴史が指し示す“菅首相”の暗雲」

 菅さんは、安倍政権の政治運営を担った、自他ともに認めるまさにナンバー2の“番頭役”でした。しかも政治理念が鮮明な安倍さんと違い、実務や権力運営の方が得意。それが、突然の安倍首相辞任によって、安倍後継の有力候補になりました。

菅義偉氏 ©️文藝春秋

 戦後政治を振り返ると、これまでも菅さんのように政権を陰で支えていた人物が、政治状況が予想外に一変したために、いきなり首相に就任したケースがいくつかありました。

 たとえば、1974年に田中角栄首相が金権スキャンダルで急遽、辞任に追い込まれたときには、「クリーンさ」が評価されて白羽の矢が立った三木武夫首相(直前まで副総理)。1980年の大平正芳首相の急死をうけて発足した鈴木善幸内閣(同・党総務会長)もそうでした。さらにはリクルート事件が発覚後、1989年に竹下登首相の後を担った宇野宗佑首相(同・外務大臣)、2000年には小渕恵三首相の急病を受けて就任した森喜朗首相(同・党幹事長)も同様です。

 ところが、こうした将来の総理候補とは誰も見ていなかった“番頭出身者”の政権は、これまでのところ、結果として軒並み混乱や悲劇を生んでいます。

 三木内閣はロッキード事件の余波を鎮められず政界の大混乱を招きましたし、鈴木首相は日米同盟について「軍事同盟ではない」と発言したことなどで、日米関係が著しく悪化しました。宇野首相は女性問題でわずか69日しか在任せず、天安門事件や冷戦終焉という世界情勢の激動の中で、日本という国の進路に多大な悪影響を与えました。

 森政権も成立から終焉まで危うい「低空飛行」が続いたのは記憶に新しいところです。しかもその間、「加藤の乱」という自民党の大きな内紛も起きました。少なくとも、こうした歴史を紐解いてみると、「菅政権」の未来に不吉な影が射しているようにも見えます。

 こうしたことを離れて、具体的に菅さんの弱点をみても一抹の不安がなくはありません。たとえば外交面です。菅さんの「外交デビュー」は昨年5月のアメリカ外遊。それまで外交経験はほとんど皆無なのです。これほど外交経験の少ない人が有力な首相候補になるのは珍しい。

 激化し続ける米中関係に加えて、このコロナ禍と経済崩壊の危機。それ以外でも日本を取り巻く国際環境が激変している。早い話が、米大統領選でトランプが勝ってもバイデンが勝っても、国際情勢は大きく変化するはず。「それでも安倍路線の継承」とはいかない。その場合、菅さんの外交経験の不足は心配で、これは現時点でかなり大きなマイナス点です。