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『半沢直樹』コメディ路線の妻役・上戸彩。あの違和感こそがリアルな理由

急にホームコメディ路線になる違和感

2020/09/12

 日曜午後9時に放送中のドラマ『半沢直樹』(第2シリーズ、TBS系)が快進撃を続けている。

 第1シリーズ最終回は42.2%という驚異の視聴率を叩き出していたが、9月13日、第8話が放送される第2シリーズも、第7話までの視聴率は全話22%超え。特に第5話は25.5%を記録し、令和に放送されたドラマの最高視聴率をマークした。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

 物語は現在、巨額の負債を抱えた航空会社の再建を任されている東京中央銀行の半沢直樹(堺雅人)が、銀行内の敵や国土交通大臣らとの熾烈な闘争を展開している。だが、本記事では物語の本筋ではなく、恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラーである筆者が、半沢と妻の花(上戸彩)のシーンを掘り下げて恋愛論的に考察していきたい。

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 先に結論をお伝えしておこう。

 花と半沢の家庭シーンは物語本筋とは一線を画す、ほんわかホームコメディのように描かれることが多く、視聴者に違和感を抱かせる。しかし、手前味噌ながら恋愛のプロである筆者が見ると、フィクションのなかの違和感となっている花と、花と一緒にいるときの半沢は、実は圧倒的にリアルな人間の描写だと映るのだ。

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チャキチャキと明るく半沢を尻に敷く

 シリアスなストーリーで緊迫感が続く『半沢直樹』において、花というキャラクター、および花と半沢の掛け合いシーンが「浮いている」と評されることは少なくない。

 チャキチャキと明るく、それでいて肝も据わっている花。外(会社・仕事)では己の信念を貫いて誰に対しても毅然とふるまう半沢も、そんな花との自宅シーンではユーモラスな掛け合いをたびたび披露するのだ。

 例えば第1シリーズの第9話では疲れて帰ってきた半沢を、花は「おかえりぃ♪」と明るく出迎えたかと思えば、次の瞬間にドスの効いたような声に変え、「はい、これっ! お風呂掃除ねっ」とバケツに入った掃除道具一式を渡す。半沢は「あれ、けっこう疲れてるんですけど…」と小声で反論するも、すぐに「すいませんでしたっ」と降伏宣言。

 同じく第1シリーズの第2話では、半沢が花から頼まれていたお土産を買い忘れたまま帰宅するシーンがある。不機嫌になる花に対して、半沢は困り顔で反省の意を示しながら、「花ちゃんっ、花ちゃんっ」と追いかけていって自ら正座。その後、花の作ってくれた夕食を「うんまいっ! 花ちゃん、これ、すんごいうまいっ!」と過剰に絶賛しておべっかを使う。

 相手が上司であってもクールに過ちを指摘したり強気に激昂したりするあの半沢が、家では花の尻に敷かれ、花の前でだけはある種のギャグキャラになってしまうのである。

 けれど、それもこれも半沢と花が強い愛情、固い絆で結ばれているからこそ。そのお土産を買い忘れた掛け合いの後には、窮地に立たされている半沢の立場を察した花が、半沢の背中をバンッ!と強く叩き、「ぜってぇ負けんじゃねぇぞ!」と元ヤン顔負けの言葉で鼓舞。

 第2シリーズの第3話、さらに条件の悪い会社に出向させられそうなことを隠していた半沢。それを半沢からカミングアウトされた花は、「なぁんだ、出向かぁ。あー、もう心配して損したぁ」とほっとした表情で脱力して見せるのだ。“出向なんて小さな問題”と言わんばかりの器のデカい切り返しで夫を安心させ、支えるのである。