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「あなたのスマホの写真、本当に存在している?」 アーティスト・オノデラユキの最新作

アート・ジャーナル

2020/09/12
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写真の中身なんて、じつは入れ替え可能?

 ギャラリーで観られるオノデラユキの新作は、《Darkside of the Moon》と名付けられている。普通なら決して見られない「月の裏側」のような秘所を、こっそり披露しようといった意味合いか。

 会場には、ひとつの壁を覆うようにして、3枚の大きな写真プリントの画面が掛かっている。

 どれもパリの街並みだろうか。特筆すべきところはなさそうな、何気ない光景にカメラを向けたモノクロ写真。

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 奇妙なのは、各々の写真の中央部分が、ごっそり四角形に切り取られていること。切り取られた部分はシャッフルされ、別の画面の切り跡にすっぽり収まっている。それぞれの写真の真ん中の大事な部分が、相互に入れ替わっているのだ。

Darkside of the Moon_No.1

 写真は一部分でも切り取られたりすれば、印象や意味はずいぶん変化してしまうものだ……。改めてそう気づかされる。でも同時に、それぞれを一枚の写真として見た場合、絵柄としてさほど違和感がないのも事実。自然に見えるよう作者が絶妙な操作をしている(もとのスナップ写真の構図のとり方や選び方、切り取る部分の位置や大きさなどの吟味などなど……)のだろうけれど。

 ということは、だ。似通ったイメージをうまく探してくれば、写真って部分的な入れ替えをしたってバレないのか? 記念写真の人物を入れ替えておいてもわからないことはあり得るのか。実際のところイマドキは顔や体型を加工しまくっている写真ばかりだし……。

 切り取ったり入れ替えたりする場所の問題もあるのだろうか。真ん中あたりだとさすがに気づくけど、これが隅っこならとりたてて影響がないのかも? 切り取る大きさはどうか。どれくらいの面積を切り取り入れ替えると人は気づくものなのか。もしくは切り取るサイズよりも、その部分に写っているもの(ただの背景か、人の顔のようなメインのモチーフかどうかの違い)に左右されるのか……。

 あれこれ素朴な疑問が湧いてきて止まらない。