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連載近田春夫の考えるヒット

“ラストソング”『Night Diver』に見えた三浦春馬の勇気と美しさ――近田春夫の考えるヒット

2020/09/22

Night Diver』(三浦春馬)/『サンキュー神様』(菅田将暉×中村倫也

絵=安斎 肇

 役者と歌手。共通する部分も多くある仕事だ。だがまた、全く別の稼業ともいえよう。

 私はうんと若い頃、タレントの真似事などしていた時に、ちょい役でドラマに出させてもらった経験があるが、これは自分には向いていないぞと、つくづく思ったものである。

 役者は自分ではない誰かを演じなければならない。俺にはそれが出来なかった。無論、技術的な問題もあるが、それより何より“芝居をする”のが照れくさかったのである。

 歌手とて歌うときに演ずることのない訳でもない。だが、それはいささか文脈の異なるもののような気もする。私見だが、歌のなかで演じるというのは、芝居よりは、むしろ噺家や講釈師の、人物描写の芸の方に近いのではないか?

 とかなんとかいいつつ、まぁ、昨今では、役者と歌手との間のハッキリとした線引きも相当難しくなってきている。売れっ子の若手は、大体が達者にどちらもこなしてくれる。

 それでもなんとなく、役者の歌う場合、やはり一種色合いというか、共通する味わいのようなもののない訳ではないだろう。一概にはいえないが、一般的に、歌詞表現に対する“入れ込みの度合い”は、普通の歌手よりは強そうである。それは普段から「台詞」や「役」というものと向き合わざるを得ない、職業的特性を勘案しての勝手な憶測に過ぎないのではあるが、いずれにせよ、自ずから、音よりコトバに重きを置いた作りが主流となりがちなのではないか。

Night Diver/三浦春馬(A-Sketch)今年7月に急逝した三浦春馬の遺作。同シングルには本人が初めて作詞作曲に挑戦した「You&I」も収録。

 そんな先入観のもと観たこともあって、三浦春馬の映像『Night Diver』には驚かされた。述べてきたようなイメージとは程遠い世界が待っていたからである。

 音が耳に入ってきた途端、咄嗟に浮かんだのは、かつて打ち込みの驚異的な緻密さを誇り、ポップシーンにも影響を与えたユニット、スクリッティ・ポリッティだったのだが、このアーティフィシャルでいかにもコンピュータ然とした楽曲の展開/構成というのが、まず予想外だった。

 そして瞠目すべきが本人のパフォーマンスだ。それこそEXILE一家かkpopかといった趣で、その一挙手一投足のキレのなんと美しいことか。

 とにかく、今回の映像にて繰り広げられる、一連の“情緒的な形容”としての“デジタルな質感”は、従前の“役者の歌う姿”にはなかった/見られなかったものである。少なくとも、当欄で取り上げてきた“役者もの”の作品に、そうした方向性を持つ動画は記憶にない。

 なににせよ、拍子が突然に変わったりする、このかなりトリッキーな作りの楽曲を、シングルとして出すというのは、ご時世を思えばなかなか勇気のいったことの筈だ。

 諸事情はひとまず置き、サウンドの面白さというものの価値を、世間に知らしめてみせた、三浦春馬の遺作の意味は、決して小さくないと思う。

サンキュー神様/菅田将暉×中村倫也(ソニーミュージック)菅田が同じ事務所の先輩である中村に声をかけて制作。MVには松坂桃李も出演。

 菅田将暉、中村倫也。

 こちらは、良くも悪くも、まさに“役者もの”の王道を行く作品といったところか。

今週のガッカリ「自民党総裁選が始まったけど、細かい政策はさておき、各立候補者がモリカケ・桜の問題をどう考えてるのかも気になるところだよね。でも、この間の立会演説会でハッキリ答えたのは石破さんだけで、他のふたりは例によってはぐらかしていたなぁ…」と近田春夫氏。「暗澹たる気持ちでビールを飲みました。もう、誤魔化しはやめようぜ!」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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