文春オンライン

現実路線より喧嘩路線 韓国政府が菅総理の「倍返し」を恐れるワケ

2020/09/23
note

 9月16日に誕生した菅政権。国際政治の中で、敏感に反応した国が韓国だった。韓国メディアは「右翼カラー」は変わっていないと評し、「安倍政権シーズン2」などと冷ややかな記事も出ている。 

 文在寅大統領は菅総理を祝賀したものの、韓国メディア同様に菅総理の外交手腕を注意深く見守っているという段階と言われている。 

菅義偉氏 ©文藝春秋

「近年顕著になっているのが、韓国政府や韓国メディアの日本政治への理解不足です。安倍=嫌韓、みたいな単純化で全てを語ろうとしますが、現実はそんなに単純なものではない。韓国内で『知日派』と呼ばれる人が少なくなったことが、理解不足の一因になっていると思われます」(外交ジャーナリスト) 

ADVERTISEMENT

 韓国政府は「安倍路線の継承」を標ぼうする菅総理を警戒している。しかし「安倍外交」と「菅外交」の本質は似て非なるものなのだ。 

 ではどこが違うのか。 

 3つのポイントを挙げながら解説をしていきたい。 

ポイント1:安倍外交は「現実路線」 だった

 安倍政権は「嫌韓」だったと国内外では見られているが、必ずしもそうとはいえない。 

 どういうことか。 

 例えば北朝鮮問題について。安倍氏は基本的に厳しいスタンスを取り続けてきたが、時に米朝会議に協力するなど、現実路線も取ってきたのだ。安倍政権は、トランプと金正恩の握手という歴史的なシーンを演出した2018年の米朝会談の開催過程においても、一定の役割を果たしてきた。 

「それまでトランプは米朝会談を板門店で行うと主張してきたのですが、4月28日の電話会談で安倍さんが『板門店では北朝鮮ペースになる。アジアの第三国でやるべきだ』とアドバイスしたのです。それをトランプが聞き入れ、シンガポールで開催することになったという経緯があるのです」(外務省関係者) 

 トランプが5月10日にツイッターで6月12日の米朝会談を発表する前にも、「米安全保障会議の担当者からは日本政府に事前通告が来ていた」(同前)といい、陰に日向にと動き回った。 

 北朝鮮に対して強硬策を取るだけではなく、米朝会談を後押しするなど親米保守のイデオロギーに準じながらも、柔軟に対応してきたのが安倍外交の特徴だったといえるだろう。 

安倍晋三氏 ©AFLO

 2015年末に締結された慰安婦合意も同様である。 

 韓国サイドから“極右政治家”と見なされていた安倍首相は、ソウルにまで乗り込み朴槿恵大統領(当時)と日韓首脳会談を行い、慰安婦合意への下交渉を行っている。 

「このとき外務省内では『安倍総理に対して、ソウルで卵をぶつけられる可能性がある』との意見が出るほど緊迫した下交渉でした。総理は『自分の時代で慰安婦問題に終止符を打つ』という強い決意を持って臨まれていた」(別の外務省関係者) 

 日韓首脳会談の成果が結実する形で、2015年12月28日・日韓外相会談で日韓合意が発表される。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのだ。 

 岸田文雄外相は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり日本政府は責任を痛感している」と謝罪の気持ちを表明している。