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ナイキはなぜBLM運動に寄り添うのか? アスリートをめぐる日米「スポンサー狂騒曲」の行く末

2020/09/20
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「どんなメッセージを受け取りましたか? みんながこの問題について考えるきっかけになればいいと思っています」

 全米オープンで2度目の優勝を果たした大坂なおみ。試合後に「7試合、7枚のマスク、7人の名前。どんなメッセージを届けたかったのでしょうか?」と聞かれると、インタビュアー、そして画面の向こうにいる視聴者にこう切り返した。

 自分の意見をあえて主張せず、だが受け取る側の心に響く、シンプルで力強い答えだったと感じた人が多かったのではないだろうか。

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全米OP優勝後にカップを掲げる大坂なおみ ©getty

 大坂が2度目の勝利を手にすると、スポンサーの1つ、ナイキがこんな広告を出した。

 “この勝利はじぶんのため

 この闘いはみんなのため”

 #YouCantStopUs(誰も止めることはできない)

 大坂の横顔の写真とともに打ち出されたコピーは、彼女の心のうちを見事に表現した秀逸なものだった。

ナイキが打ち出していた広告戦略とは? 

 ナイキは常に時代の流れを読んでいる――。そう感じたのは、5月末にBlack Lives Matter (ブラック・ライブズ・マター、訳:黒人の命にも重きを)、通称「BLM運動」が全米に広がった時のことだ。

 ナイキは即座に反応し、“For once, Don’t Do It.(今回だけは、してはいけない)”というタイトルで、「人種差別をしてはいけない。人種差別が存在する現実から目を背けてはいけない。声を上げよう、全員で関わって行こう」というメッセージを込めた広告を展開。

 6月3日には今後4年間にわたり、社会正義、教育、不平等の是正などの活動、黒人コミュニティの支援のために約40億円の支援を発表している。

 また7月末には、さまざまなスポーツを合成した映像を駆使した広告を展開しているが、動画の中ではBLM運動のTシャツを着た選手、NFLの試合前の国歌斉唱の際に膝をついたコリン・キャパニックの姿も。日本語で「私たちがひとつになれば、誰も止めることはできない」というメッセージには人種差別と闘おうという意味もある。