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連載名画レントゲン

「セザンヌの絵、何がいいんだ?」という人にこそ見つけて欲しい“対比の妙”――ポール・セザンヌ『ロザリオを持つ老女』

ポール・セザンヌ『ロザリオを持つ老女』(1895-96年頃)

2020/09/30

 近代絵画の父と言われるセザンヌ作『ロザリオを持つ老女』は決して目立つ絵とは言えません。しかし、見るほどに知るほどに、じわじわと味わいが増す絵です。

 まず白い帽子が目立つ女性の頭部、次にその手元に目が行くでしょう。よく見ると、そこに数珠状のものが握りしめられていると気づき、そこで、「タイトルのロザリオはこれか」と納得する流れ。

 この絵のモデルは、セザンヌの理解者であった美術批評家のジョワシャン・ガスケによると元修道女。修道院を抜け出してさまよっていたところ、セザンヌに使用人として雇われることになったそう。そんな人が、このように宗教用具であるロザリオをぐっと両手で掴んでいる姿は、見る人の心にさまざまな解釈を喚起します。

ポール・セザンヌ『ロザリオを持つ老女』1895-96年頃 油彩・カンヴァス

 このような絵は「精神性が表現されている」と言われたりしますが、その「精神性」とは一体、具体的には絵のどのような要素から感じられるものなのでしょう?

 やはり、この全体的に黒っぽい抑えた色調が、重々しさ、厳しさ、何か訳ありの様子を感じさせますね。白黒だと分かりませんが、カラーでも、白い帽子と顔、両袖から先の少し明るい部分、スカートの青いところ以外は全体的に何色ともいえない黒っぽい色。

 一般に、明るく色数が多いと元気でポップな印象になり、このように色味を抑えたダークトーンは、抑制感や落ち着いた印象を与えます。この絵が漂わせる「精神性」は、第一に、この色調の効果によるものが大きいでしょう。