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同性愛差別の足立区議宛てに「とんでもない思い違いです」…81歳祖母の手紙が教えてくれたこと

2020/10/11
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「おばあちゃんが足立区議の件で怒っていて、手紙を書くらしい」 

 母からこんなLINEが来たのは、先週土曜日の18時頃だった。翌朝には、「突然お便りさせて頂きます」という一言からはじまる81歳の祖母が書いた手紙の画像が送られてきた。 

著者の祖母が書いた手紙(著者提供)

 先月25日、東京都足立区議会で自民党・白石正輝区議が「日本がL(レズビアン)やG(ゲイ)ばかりになると足立区が滅びる」と発言したことで多くの批判を集めた。祖母が書いた手紙は、この白石区議に宛てたものだ。 

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 手紙では「これ以上この国のLGBTの人々が苦しまずに生きていけるようにすることが、政治が行なうべきことなのです」と、力強い祖母の想いが綴られていた。 

 孫として、ゲイの当事者の一人として、祖母が行動を起こしてくれたことに、大きな勇気をもらった。祖母の手紙は白石議員だけでなく、SNSを通じて多くの人に届き、励まされたという声も多数寄せられた。 

 祖母にカミングアウトしてから約5年。なぜ祖母が今回行動を起こしてくれたのか、祖母との思い出やカミングアウトについて書いてみたいと思う。 

1938年生まれの81歳 

 祖母は1938年、昭和13年に九州で生まれた。今は名古屋にある私の実家で、母と父、祖母の3人で暮らしている。 

 トランプの「スパイダーソリティア」が好きで、毎晩ストレッチをかかさない。ユーモアあふれる81歳の元気なおばあちゃんだ。 

 記憶に残っている祖母との一番古い思い出は、私が幼少期の頃、名古屋の栄にある東急ハンズの木材コーナーが好きで、よく連れていってもらったことだ。その帰りには、いつもハッピーセットのおもちゃ欲しさにマクドナルドにも寄ってもらっていたのを覚えている。 

 食べきれないフライドポテトをどうにか持ち帰ってほしいとカバンに入れてもらい、あとでフニャフニャにしけったポテトを食べることが好きだった。 

 祖母の手作りプリンが好きで、ほんのり苦いカラメルソースと甘いプリンのバランスが絶品だ。色あせた手書きのレシピノートは古文書のようでかっこよかった。 

 祖母との良い思い出はたくさんある。それでも、私は自分がゲイであることを祖母に伝えることは一生ないだろうと思っていた。 

左は筆者が幼少期に祖母に贈り、祖母が大事に保管していた肩たたき券(未使用分)。右は数年前に肩たたき券を使いたいと言われ、筆者が肩たたきをした写真。(筆者提供)

「祖母にはカミングアウトしないでおこう 」と決めていたが

 家族へのカミングアウトは当事者にとって特にハードルが高い。毎日顔を合わせるような関係だからこそ、もし受け入れられなかったら、その瞬間に自分の居場所を失ってしまうかもしれないからだ。 

 私は結局、高校卒業まで自分がゲイであることを家族に伝えることはできなかった。大学進学のために名古屋から上京してから2年が経とうという頃、まず母にカミングアウトし、その後父へと伝わった。 

 父は受け入れるまでに少し時間を要したようだったが、両親は好意的に受け止めてくれた。しかし、母とは「おばあちゃんは流石にびっくりするだろうから、伝えるのはやめておこう」と当初は決めていた。