文春オンライン

「フクシマ50」の中にもヤクザはいた 原発事故の“英雄たち”は月給100万円

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#7

2020/10/25

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

 30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があることを知る。そして2011年3月11日、東日本大震災が起こった――。鈴木氏が福島第一原発(1F)に潜入したレポート、『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。(全2回の1回目/後編に続く)

◆◆◆

茶髪のフクシマ50

 時間通りに老舗旅館に着くと、フロント脇の応接セットに茶髪の若者が座っていた。時々こちらをのぞき込む。まだ若い。20代だろう。

ADVERTISEMENT

 責任者の姿を探す。それらしい人はいなかった。10分、20分……約束の時間を過ぎても、ピンク色の腕時計を見つめたままの茶髪君しか見あたらない。30分ほどたって、ようやくピンと来た。

「あれ、もしかして……」

「えっ、鈴木さん……ですか?」

 初対面の責任者は、こちらの目を見ようともせずはにかんだ。

「責任者っていうから……こんなに若いと思わなかった。ごめん」

「俺も東京からやってきて、初めて原発で働く人が、作業着に安全靴だとは思わなくて……てっきり背広かなんか着てるんだと思って……」

 若い茶髪の責任者は、「とりあえず、鈴木さんの部屋に行きませんか」と提案した。拒否する理由はないので、2人で501号室に上がった。広い。20畳はある。

「7月10日の夕方に、この部屋に来て下さい。O社(G社の上会社)の鈴木っていえば、フロントで鍵もらえます。あとのことはその時説明します」

「了解!」

 おどけて若い責任者に敬礼した。

「プファッ~」

 責任者はやっと笑った。

 そこから小一時間ほど世間話をした。話題は私の過去についてだった。

「いつもはなんの仕事をしてるんですか?」

 どう答えていいか悩んだ。軽いジャブで応酬した。

「俺の仕事? ゆすり、たかり、恐喝」

「マジっすか?」

 取材対象が暴力団なので、とっさにそう噓をついた。

「いや、でも実際いつもそんな感じの場所にいる」

「なのに作業着似合いすぎ、です」

「形から入るのが詐欺師のやり方だもん」

「クックック。すげぇ、なんかすげぇ感じです」

※写真はイメージ ©️iStock.com

 責任者は、右腕で両目を覆いながら、純朴な仕草で笑った。

「そうだ。俺、会社から名刺作ってもらったんです」

 受け取った名刺には、G社の会社名の下に『FUKUSHIMA 50』と印刷してあった。

「えっ? フクシマ50なの?」

「一応、です」