昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載名画レントゲン

ルノワールの描く豊満な女性像 そこに隠された「目線」の意味とは

ピエール=オーギュスト・ルノワール『アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)』(1872年)

2020/10/21

 ルノワールの絵は、当時のパリの人々が楽しく生きる様を、淡い色彩と溶け合うような筆致で描くイメージがあると思います。それに反し、この絵は筆さばきこそルノワール特有の柔らかさがありますが、比較的珍しい画題。中央に座る女性の身支度を、両側の女性が整えている場面を描いたエキゾチックな1枚。

ピエール=オーギュスト・ルノワール『アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)』(1872年)

 19世紀後半のパリでは、「オリエンタリズム」と呼ばれる東洋をはじめとした異国への憧れがありました。本作品はサロンという公式美術展入選を狙ってか、その流行を追い、行ったことのないアルジェリア風の場面をパリで再現して描いたもの。豊満な女性像そのものはルノワールが得意な題材ですが、彼が絶賛したドラクロワの『アルジェの女たち』が現地取材して描かれているのと比べると、テーマに取り組む姿勢はライトと言わざるをえません。

 それでもさすがルノワール。画面の構成自体は非常に堅牢なもの。

 大まかな構図としては、3人の女性の頭が3つ並び、左上から右下にかけた流れが生れ、中央の女性の曲げておろした右の膝下と、カーペットの模様が平行になり、この流れを強調しています。

 そのままでは、3人が右下に滑り落ちそうなものですが、左側と右側の2人が互い違いのポーズであることで、中央の女性を挟む括弧のようになり、バランスを取って画面をまとめています。この2人、他の点でも対照的で、ほぼ裸体と着衣、裸足と靴、アップヘアとダウンヘアになっています。

 この作品の大きな見どころは、画中の人物の「目線」のインタープレイによって鑑賞者の視線を導く技術。その流れを追うと、この場面に何が起きているのかが明らかに。