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ゴミ捨て場に遺棄された何体もの赤ん坊の死体…36年間の「一人っ子政策」で生じた“中国の闇”

2020/10/26
 

 かつて教科書で習った中国の「一人っ子政策」。1979年から2015年まで36年間続いたこの政策で何が起きたのか。その深い闇に迫り、昨年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門でグランプリを受賞した作品が『一人っ子の国』(アマゾン・プライムビデオで配信中)だ。

 本作の2人の女性監督の1人、ナンフー・ワンは一人っ子政策下の1985年に中国で生まれ、現在は米国で暮らしている。彼女が自らカメラを回し、中国の田舎で暮らす母親や親戚を訪ねながら一人っ子政策がもたらした影響や自身の出生について探っていく。彼女の中国名は「王男栿(ワンナンフー)」。まるで男性のような名前だ。母親は「男の大黒柱が欲しかった」と当時の心境を語る。のちに弟が生まれ、その後誕生した妹は「生まれたけど捨てた」と聞かされる。一人っ子政策の下では、家を継ぐ男の子の誕生だけを望む地域社会が形成されていたのだ。ワン監督の出生にも立ち会った84歳の産婆は「5万人の中絶手術を行った」と証言する。

 当時の状況を物語る写真も残されている。産業廃棄物であふれるゴミ捨て場を撮影したアート写真の中に赤ん坊の人形が横たわっている。だが、それは紛れもなく本物の赤ん坊の死体。撮影した写真家は当時、ゴミ捨て場に遺棄された新生児を何体も目撃したと語る。路上に捨てられた子も多く、10万人以上が外国へ売られ、養子縁組という形で引き取られたという。

 衝撃的な事実の数々に愕然とするが、本作を作り手目線で見ると、撮影や編集、構成が見事に計算されていることに気づく。監督が1人で撮影するスタイルでありながら、巧みに鏡に映り込む自分や切り返しの画を挟むなど、米国留学によって培われた確かな技術や演出力が感じられるのだ。映像文化が国境を越え、従来のセルフ・ドキュメンタリーの系譜を塗り替える作品として昇華したことに希望を感じる。

INFORMATION

『一人っ子の国』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0812DGC9T

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