スポーツは大まかに2種類に分けることができる。「起動のスポーツ」と「反応のスポーツ」だ。前者は自らが動き出さなければ始まらない競技で、ボウリングやダーツはその典型である。逆に、サッカーやテニスは後者に当たる。テニスはサービスのみ起動が求められるが、ひと度、打ち合いになれば反応のスポーツと言える。イップスが多いのは、圧倒的に前者だ。
日本ダーツ界の絶対王者・浅田斉吾もやはり一時期、極度のイップス症状に悩まされた経験を持つ。しかし、そのイップスを乗り越え、プロリーグ「PERFECT」で2015年から5年連続ランキング1位に輝いている。浅田はそれを「イップス明けの爆発」と表現する。
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試合中、いきなり腕が前に出なくなった
――浅田さんは07年、日本初のプロリーグ「PERFECT」が開幕したと同時にプロになっています。まだダーツを始めて1年足らずのキャリアで、6戦目で早くも優勝し、天才と騒がれました。しかし翌08年、イップスと呼ばれる症状に苦しまれました。きっかけは何だったのでしょう。
浅田 シーズン終盤、近畿王者を決める試合で、ゲーム中、いきなり投げられなくなってしまったんです。手は引けるのですが、前に出せない。体だけ前にいっちゃうような状態でした。偶然、1年目で優勝してしまったので、周りの期待値がすごく高かった。それだけにすごく緊張していたんです。そのときはメンタルもぜんぜんついてきていなかったので。それが原因だと思います。
――その試合は、何とか投げられたのですか。
浅田 いえ。ボードまでの距離は2メートルちょっとしかないのですが、それでも届きませんでした。腕が出ないので、下に落とすぐらいしかできないんです。なので「すいません……」って謝りながら試合を続けて、当然、負けました。予兆とかもまったくなくて。いきなりでしたね。そこからは長かったです。
――よく練習は大丈夫だけど、試合になるとダメだという話も聞きますが、浅田さんのケースはどうでしたか。
浅田 僕は練習でも投げられなかったです。素振りはできても、ボードの前に立つと投げられませんでした。