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福原愛とダブルスで全日本選手権制覇も…卓球・坂本竜介が語る「イップスの闇の深さ」

イップスの正体 #3

2020/11/21

source : 文藝春秋 digital

genre : ライフ, スポーツ

 卓球は「回転のスポーツ」と呼ばれる。前後、左右と、あらゆる方向から回転をかけ、受ける方は相手の打ち方からその回転を読み、回転をかけ返す。その中で、互いに、およそ152.5×137センチの小さな台上に落し合わなければならない。手首の動かし方、力の強弱において、これほど末端神経の繊細さを要求されるスポーツは他にないのではないか。

 手先の複雑な動きを要求されるスポーツほど「イップス」はかかりやすいと言われ、かつ、修正が困難だと言われる。

 そんな迷宮に入り込んでしまったのが、卓球男子の元日本代表・坂本竜介(T.T彩たま監督)だ。高校時代にドイツ留学し、福原愛と組んだダブルスでは2度、全日本選手権を制すなど、日本のトップで活躍した。その坂本が卓球におけるイップスの闇の深さを語る。

坂本竜介さん

◆ ◆ ◆

――最初に異変を感じたのは07年、ドイツから帰国したばかりのタイミングだったんですよね。社会人チーム「協和発酵」に移籍し、日本リーグのホームマッチで……。

坂本 はい、23歳のときでした。ホームマッチとは5人ずつの団体戦で、ホームとアウェーで1試合ずつ行われるんです。ホームマッチは狭い会場でやるので、観客と選手の距離がいちばん近い。協和発酵の場合は、ありがたいことに社長や副社長も応援に来て下さる。初めて会社役員たちの前でプレーするだけでも緊張するのに、しかも真隣で見られている状況だったんです。当時、私は日本ランキング3位くらいだったので、『坂本が入ったんだから負けるわけない』みたいな空気もあった。ただでさえ、さまざまなプレッシャーがかかっていたんです。

©文藝春秋

――その試合、坂本さんは5番手で出場することになっていたんですよね。

坂本 小学校2年から卓球を始め、初めて5番目に名前を書かれました。『えっ、オレが5番?』って。卓球にはさまざまなタイプがいます。前陣速攻といって台に張り付いて戦うタイプや、カットマンといって粘り倒すタイプとか。僕は超攻撃的なタイプでした。団体戦の5番手に求められる資質は安定性です。2対2で回ってきたときにもっとも信頼できる選手。そこへ行くと僕は1番手とか2番手で思い切りぶつかっていって、チームに勢いを付ける役割の選手だったんです。なので正直、荷が重かった。その日は夕方6時から試合で、午前中にオーダーの発表がありました。そこから精神的な動揺が始まっていたんだと思います。

――その試合、結局、2対2で出番が回ってきたわけですか。

坂本 そうです。回ってくんな、回ってくんな……と思っていたんですけども。試合が始まったら、1本目のサーブから手が動かなかった。過緊張でしょうね。耐えうる緊張のレベルを超えてしまった。そこからはもう記憶がないんです。気づいたら試合は終わっていました。卓球は1セット11点制で、先に3セット取ったら勝ちなのですが、どのセットも3、4点しか取れずにストレート負けしたと思います。