文春オンライン

2020/11/21

source : 文藝春秋 digital

genre : ライフ, スポーツ

――イップスと言うと、何かきっかけがあって、そこからだんだんひどくなっていくようなイメージがありますが、もう、いきなり最初からそんな感じだったのですか。

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坂本 もう、いきなりです。前兆のようなものもまったくなかったし、試合前の練習も何の問題もなかった。ただ、移籍後、初めての大きな試合で、役員が見ていて、5番手を任されたことで、精神的にかなり負荷はかかっていました。そんな中、2対2で出番が回ってきて一気に弾けちゃったんでしょうね。

勝ち負けがかかった瞬間に手が動かなくなってしまう

――でも、次の日から、また普通に打てるんだろうなと思っていたわけですよね。

坂本 もちろん、そう思ってました。練習でやったら、普通に手が出たんですよ。あ、大丈夫だ、と。でも試合形式でやろうとなったらダメでした。あれ? みたいな。なんだ、この手、って。点数を数えて、勝ち負けがかかった瞬間に手が動かなくなってしまうんです。手首が利かないので、回転をまったくかけられない。ちなみに今もダメです。選手に『ちょっとサーブを出してください』と言われても出せない。サーブは最初の攻撃なので、ものすごく重要なんです。特に自分の場合は、サーブでそこまで勝ってきたようなものなんです。なので、それまで一度も負けたことのない選手にストレートで負けたりするようになってしまいました。

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――当時、イップスという言葉は知っていたのですか。

坂本 卓球の世界では一度も聞いたことがなかったですね。なので、練習しねえからできねえんだみたいな見られ方をするのがいちばん辛かった。髭を生やしてるからだとか、髪を染めてるからだとか。あれは日本の悪しきスポーツ文化ですね。見た目とか、そこまでの過程を必要以上に重んじてしまう。

――自分がイップスと呼ばれる症状なのかもと気づいたのはいつ頃なのですか。

坂本 4年ぐらいやってもぜんぜん改善しないので、なんでだろうと思ってネットで調べたんです。そうしたら、イップスという言葉を見つけて。その後、専修大学で、そういうことを専門的に研究している人を訪ねました。『重度のイップス症状ですね』と言われました。そう言われて楽になりましたね。ずっと練習してねえからできねえんだっていう見られ方をしていたので、やっぱりそういうことではなかったんだ、と。