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大規模化だけが正解か? 日本の農家の“小規模家族経営”が見直されている深いワケ

JA全中会長・中家徹×ジャーナリスト・佐々木俊尚対談

2020/12/10

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様々な課題を抱える日本の農業。次世代の日本農業の勝機はどこにあるのか。JA全中会長の中家徹さんと、ジャーナリストの佐々木俊尚さんが本音で語り合います。

「国消国産」の意味

佐々木 新型コロナウイルスの流行はあらゆる産業に打撃を与えましたが、農業にも大きな影響があったようですね。

中家 やはり需要の減少です。インバウンドや会食がなくなったために和牛肉の価格は3割下がり、イベントや式典の取り止めで花の値段が4割落ち込みました。牛乳は需要の10%を学校給食が占めるのですが、全国一斉休校によって余ってしまいました。

 我々は今回のコロナ禍から、農業、農村、JAについて、それぞれ教訓を得たと考えています。春先にマスクが買えなくて、大騒ぎになったじゃないですか。あれが食料だったらどうするのか。これが、日本の農業に対する第一の教訓です。

 つまり、「国消国産を推進し、食料安全保障を確立させる」ことの大切さ。地元で採れたものを地元で消費するのは「地産地消」で、「国消国産」と言うのは、自国で消費する食べ物は自国で生産するという考え方です。

佐々木 日本の食料自給率は、令和元年度で38%(カロリーベース)しかありませんからね。

中家 コロナが流行する以前から、日本の食を取りまくリスクはどんどん高まっていたんです。農業の生産基盤である人と農地は、平成の30年間で非常に弱くなりました。農業従事者の平均年齢は、10歳上がって67歳です。就農人口が年間8・5万人のペースで減る一方、新規就農者は5万人ですから、追いつきません。

JA全中会長・中家徹さん
JA全中会長・中家徹さん

佐々木 農業人口はいま、約140万人です。終戦後の昭和22年にはおよそ1660万人でしたから、10分の1以下に減ったわけですね。

中家 農地面積も年々減り続けています。前年比ばかり見ているとなかなかピンとこないけれども、大変な状況です。

 我が国が農畜産物を輸入している上位5カ国は、アメリカ、中国、オーストラリア、タイ、カナダですが、2019年はすべての国で、台風や干ばつ、山火事などの自然災害が起こりました。また、TPPやEPAによる国際化の進展で、日本が輸入する農畜産物の増加は輸出の増加分の7倍にもなっています。人口は世界的に増え続けていますから、輸入を増やすことは途上国に飢餓を輸出している、と言い換えることもできるんです。

佐々木 さまざまな要因で食料自給率は下がり、食料安全保障のリスクは高まるばかりです。

中家 そこへコロナの流行で、十月時点で世界の20カ国が食料の輸出規制を行ないました。輸出している場合じゃない。まず自国民に食べさせようと考えるのは当然ですよね。海外の農畜産物が入って来なくなって食べる物が不足する事態が、現実にありうるんです。だからこそ、国民が必要とする食料は自国で生産することが基本だと、コロナから改めて教えられたのではないでしょうか。

出典:農林水産省「農林業センサス」(平成22年、27年)、「農業構造動態調査」(平成29年、30年)をもとに全中作成。 ※注:「農業就業人口」とは、満15歳以上の農家世帯員ののうち調査期日前1年間に農業のみに従事したもの、または農業と兼業の双方に従事したが、農業従事日数の多いものを指す
出典:農林水産省「農林業センサス」(平成22年、27年)、「農業構造動態調査」(平成29年、30年)をもとに全中作成。 ※注:「農業就業人口」とは、満15歳以上の農家世帯員ののうち調査期日前1年間に農業のみに従事したもの、または農業と兼業の双方に従事したが、農業従事日数の多いものを指す

佐々木 産業全体がグローバル化してサプライチェーンの完成度が高くなったので、スマートフォンなどは世界中からパーツを集めて中国で組み立てられています。食に関しても、海外の生産地からうまく調達できればいいと思われていたわけです。生鮮食品から弁当まで、高度な物流に支えられていつでも手に入る生活に慣れていたのが、パンデミック下では機能しないことが明らかになってしまいました。

中家 それに農畜産物は、マスクなどの工業製品と違います。あれだけ問題となったマスクは、3カ月ほどで店頭に並んでいたでしょう。

佐々木 大量に増産して、保管もできますからね。

中家 農業は、農地をいったん荒廃地にしたら、元へ戻すのに相当な年数と手間がかかります。担い手の育成も同じです。5年や10年という長いスパンで考えなければいけません。危機は真綿で首を絞めるように来るから、なかなか実感が湧かない。ぬるま湯のカエルみたいに、ある日突然「え? 大変なことになってる」と気づくんです。

佐々木 コロナでわかったことのもうひとつは、医療や社会インフラを支える人たちの大切さでした。同じように、都市部の消費者が「農業従事者をもっと大事にしなきゃいけないんじゃないの?」と意識を変える期待感はあると思います。

農村風景の価値

中家 コロナで得た2つ目の教訓は、農村に対してです。つまり「分散型社会と田園回帰を進めなければならない」ということ。三密を避けるためにテレワークが推奨されて、初めは半信半疑だったのが、やってみたらできるじゃないかという流れになりました。

 東京の若者を対象にしたあるアンケートで、田舎暮らしをしたいという声が3割を超えたそうです。感染リスクが高い都会を離れて、田舎でテレワークしながら少し農業でもやるかという考えが、若い世代に出てきているんです。

佐々木 都会の企業に勤めながら、週の半分は地方へ行って農業をやるという暮らし方が、現実的になってきます。完全に移住するのではなく、行ったり来たりする新しいワークライフスタイル。これが広がると、農業人口が増える可能性も見えてきます。

ジャーナリスト・佐々木俊尚さん
ジャーナリスト・佐々木俊尚さん

中家 地方が頭を抱えている最大の問題は、人口の減少です。空き家はあるし、田畑も余っています。

佐々木 ところが、いざ移住しようかと思って自治体へ行くと、就労と家探しの窓口が別々だから、どこに相談していいかわからない。農業をやってみたくても、始め方がわからない。うまく繋ぐ仕組みがないことは問題です。

中家 定年退職、Iターン、半農半Xなど、多様な人たちを歓迎する受け皿作りが必要です。農業生産力の維持だけでなく、地域を守るために、という視点も欠かせません。どこの農村にも、祭りをはじめ地域だけの伝統文化がありますが、引き継ぎ手がいない場合も多いんです。

佐々木 半農半Xで都会と農村を行ったり来たりすると、どっちに軸足を置くのかを問われてしまう事態も起こります。たとえば、ゴミ収集所が使えないといった問題があるんです。

 地元の共同体側から見たとき、町内会に入ってないし草むしりや掃除も手伝ってないのに、勝手に来てタダ乗りしてるじゃないか、という意識は理解できます。けれどもそればかり言っていると、農村が崩壊していくのを止められないでしょう。そのジレンマをどう乗り越えるかは、農村に問われているテーマだと感じます。

中家 そのお話はまさに、コロナ禍から得た3つ目の教訓に繋がります。つまりJAに対して、「助け合いの精神、協同心を見直そう」ということです。最近、完全に移住した「定住人口」でもなく、観光だけにやって来た「交流人口」でもなく、地域と多様に関わる人のことを「関係人口」と呼んでいます。そういう新たな取り組みが大事でしょうね。

佐々木 ふるさと納税は制度設計の問題なのか、特産品を安く買う方法みたいになってしまいました。しかし居場所に合わせて分けて払うことができれば、地方とのつながり方を作り直すツールとして使えるはずです。

中家 地方の状況を国民の皆さんにご理解いただき、「農業と農村を大事にしたい」と考える人が、少しでも増えてほしい。そして国産の農畜産物を消費してもらえれば、日本の農業の力は強くなります。

佐々木 実際に農村と関わってみて感じるのは、水田の風景や、そこに携わる人たちすべてを含む空間そのものの価値です。作家の井上ひさしさんは『コメの話』という本で、「コメづくりは工業じゃない。水田の風景は日本の最も重要な資産のひとつである」と書いています。

中家 その通りです。我々は「多面的機能」と言っていますが、農業や農村の意義は食料生産だけではありません。たとえば災害対策です。去年の台風19号で千葉県が甚大な被害を受けて、長期間にわたって停電が続いたじゃないですか。倒木によって電線がたくさん切れてしまって、復旧に時間がかかったんです。

 どうして木が倒れたかというと、林業が疲弊して、山林の管理が十分にできていなかったせいです。木の中に虫が入ると、風雨に耐えきれずに倒れてしまうんですよ。各地で起こる山崩れなどの自然災害には、人災の側面もあるんです。

農村をどうするか?

佐々木 道の駅や直売所へ行くと、農家の方の写真と名前のついている野菜を売っていますが、まだ物足りない。その土地でしか採れない野菜って、いっぱいあるじゃないですか。どう料理するのか尋ねたら、生産したおばちゃんがその場で教えてくれるような、対面販売のやりとりが増えたら嬉しいです。

中家 梅の産地である和歌山でも、青梅の消費が減っているんですよ。梅というのは、梅干しにせよジュースにせよ、手を加えなければ食べられない商品ですが、やり方がわからなくなってきたからです。

 昔は八百屋で野菜を買うとき、「塩を何パーセントにしてどのくらい漬けたら、いい梅干しができるよ」と教えられましたよね。最近は大きなスーパーの棚に並べて、簡単なレシピがあるくらいであとは勝手に買って下さいという流れですから、対話する場面は減ってしまいました。

佐々木 八百屋さんがなくなり、家庭内でも継承されなくなっていますから、梅干しや干し柿などの作り方や、伝統的な料理を伝えていくネットワークが必要かもしれませんね。

中家 JAも直売所を持っていますが、消費者と生産者が少しでも話ができる場所にしていきたいです。

佐々木 一方で世の中の流れは、大規模化や法人化です。飲食などでも家族経営より、外から資本を入れてチェーン店にしたほうが、安定するし収益も見込まれると言われてきました。ところがコロナ禍で、都市部では家族経営の店が生き残って、大規模化した店は固定費が高いために潰れてしまうところが多かった。何がレジリエンスが高いのかという考え方が、揺らいでいる気がします。

 そこで、3月に改定された農水省の「食料・農業・農村基本計画」を見ると、家族経営や小規模経営を重視する方向へ舵が切り替わっていると思うんです。あれは、どういう経緯ですか。

中家 基本計画は5年ごとに見直すのですが、我々が強調したのは、まさに佐々木さんがおっしゃったような部分です。日本の農業は、国際競争力をつけるという名目で大規模化を図り、産業としての政策ばかり重視してきましたが、そうじゃないでしょうと。

 農家は大半が家族経営で、農業と地域を守ってきた長い歴史があります。農村をどうするかという地域政策の視点をもう一度大事にせないかんとJAグループとして言い続けて、取り入れられたわけです。

佐々木 なるほど。コロナを想定していなかったのに、奇しくも小規模家族経営の強さがわかったというのは、不思議な巡り合わせです。小さな農家と消費者をマスマーケティングではない方法で繋ぐネットワークができれば、新たな面白い関係が構築できそうです。

インフラとしてのJA

中家 デジタル化も一気に進むと思います。我々は「スマート農業」という言葉を使っていますが、ITを農業にどう活かしていくかは大きなポイントです。家族農業では労働力不足が深刻ですから、技術の改善や省力化に取り組む必要があります。

佐々木 田畑の管理にITを使うだけでなく、農繁期の人集めにSNSを活用するといった使いこなし方が求められますね。葉っぱのビジネスは、徳島県の上勝町でしたっけ?

中家 はい。上勝町は山間部で高齢化率が5割を超える田舎ですが、紅葉や椿の葉を、料理に添える「つまもの」として全国に出荷して、有名になりました。第三セクターとJA東とくしまが協力して、おばあちゃんたちがパソコンやスマートフォンを使って受注生産しています。

佐々木 ITをうまく導入した事例ですね。

中家 農業やJAの多面的機能には、過疎が進む農村でのインフラもあります。私の地元である和歌山のJA紀南では、山村で暮らす買い物弱者のために、移動スーパーを6台走らせています。これは物販と同時に、お年寄りの安否確認なんですよ。採算は厳しいですが、地域に根差した組織として、使命感で続ける必要があると考えています。

佐々木 中山間地域が消滅しそうな状況でも、自治体は財政難で身動きできなくなっています。最後の担い手としてインフラを維持する役目は、JAにしかできないでしょうね。

中家 先日も地方創生を担当する坂本哲志大臣にお目にかかって、「国も地方創生において、JAに期待する部分が大きい」というお言葉をいただきました。

 それから、コロナ患者を国内で最初に受け入れたのは、JA神奈川県厚生連の相模原協同病院です。JA厚生連は、全国32の都道県郡に105の病院を展開していて、へき地医療の拠点として重要な役割を担っています。

 課題は山積していますが、農業と農村と日本が元気であるためには、JAが元気でなければいけません。

佐々木 課題がたくさんあるというのは、潜在的な可能性も大きいということです。

中家 私は2017年にJA全中の会長に就任し、今年八月から二期目を務めています。農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化という3つの基本目標を掲げて、JAグループのいっそうの自己改革に取り組んでいきます。

 
 

提供:全国農業協同組合中央会

中家 徹 なかや とおる
1949年和歌山県生まれ。’72年中央協同組合学園を卒業後、’74年紀南農協入組。営農部長、企画管理部長、参事、代表理事専務、代表理事組合長、JAグループ和歌山会長、JA全中副会長などを歴任し2017年8月よりJA全中会長に就任。本年8月に再選され、現在2期目。みかん農家。

佐々木 俊尚 ささき としなお
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。現在は、東京、軽井沢、福井の3拠点生活を送っている。著書に『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など多数。

撮影:本社 杉山秀樹