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大塚久美子氏退任へ…大塚家具「父と娘」の1500日戦争

2020/11/30

 大塚家具の大塚久美子社長が、12月1日をもって退任する。大塚家具の経営をめぐる戦いに、誰が勝ち、誰が負けたのか? 経済ジャーナリストの磯山友幸氏は、上場企業の経営問題が「家族の諍い」に置き換わることで、問題の大事な本質が見失われてしまった、と分析する。スキャンダルと後継者の退職、本業の環境悪化という三重苦の中で、2009年に社長に就任した久美子氏と父・勝久氏、母・千代子氏ら、それぞれの思惑とは一体何だったのか。「文藝春秋」2018年10月号の記事を特別に公開する。
※肩書きや年齢などは掲載時のままです。

大塚久美子氏 ©文藝春秋

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問題の本質が見失われていた

 大塚家具が断末魔に喘いでいる。大塚家具は8月7日に2018年12月期の業績予想を修正、最終損益は34億円の赤字と、3期連続で大幅な赤字に陥る見通しであることを明らかにした。この3年間で売上高が580億円から376億円へと200億円も減って3分の2の水準になる。深刻な販売不振で、先行きが全く見通せないのである。

 大塚家具が修正発表に踏み切る数日前、大手メディアが相次いで大塚家具の苦境を報じた。端緒は8月3日にアップされた日経ビジネスオンラインの記事。「大塚家具、自力再建困難に、身売り交渉大詰め スポンサー選び佳境、合意のハードルは高く」という刺激的なタイトルだった。

 翌4日には朝日新聞がこれに畳み掛ける記事を掲載した。朝刊1面で「大塚家具、身売りへ TKP軸に最終調整」と報じたのだ。ティーケーピー(TKP)は貸会議室大手で、大塚家具とは昨年11月に提携して3位株主になっている。その「TKPが第3者割当増資により過半の株式を取得する案が有力となった」と朝日は書いた。

 これに対して大塚家具は「(TKPとは)業務・資本提携を締結しており、その提携関係においてあらゆる可能性を検討しておりますが、現時点において新たにもしくは具体的に決定した事項はございません」とするコメントを同日出した。

 あの大塚家具が身売り!? これらの報道をきっかけに民放テレビ局の情報番組が一斉に取り上げた。というのも、創業者で父親の大塚勝久会長(当時)と実の娘の大塚久美子社長が経営権を巡って争い、株主総会で委任状争奪戦まで繰り広げた記憶が生々しかったからだ。2015年の株主総会前後には、上場企業を舞台にした「世紀の親子ゲンカ」として情報番組の格好の題材になった。

 だが、上場企業の経営問題が「家族の諍い」に置き換わることで、問題の大事な本質が見失われているような気がしてならない。いったい誰が被害者で、誰が笑っているのか。一連の騒動をあらためて検証したい。

 大塚家具がワイドショーの好餌になった最大のきっかけは、2015年2月25日に大塚勝久会長が行った記者会見だった。三つ揃いのスーツを着た勝久氏を中心に、正面ひな壇にスーツ姿の男たち14人が直立不動で並ぶ異様な光景だった。

 会見で明らかにした内容はこれまた異例だった。勝久氏は当時、大塚家具の株式350万株、発行済株式数の18.04%を握る筆頭株主だった。その大株主の権利として、3月に予定されていた株主総会に取締役の選任議案を出すというのである。株主提案である。

大塚勝久氏 ©共同通信社

 驚いたことにその名簿には、社長である久美子氏の名前は無かった。

「久美子が社長のままでは優秀な社員が退社してしまいます。社員を育てたのはお客様です。子どもは5人いますが、1700人の社員も子どもです」

「(久美子氏を)社長に選んだことが私の唯一の失敗です。それ以外は私は失敗していません」

「経営者としては失敗はなかったが、親としては間違ってしまった」

 会見で記者との質疑が始まると、勝久氏の口からは久美子氏批判が溢れ出した。そして、その後、民放の情報番組で繰り返し使われることになる発言が飛び出した。

「何人かの悪い子どもを作ったと、そう思わざるを得ません。今は」

 経営権を巡る争いが、勝久氏の「悪い子を作った」というひと言で、世の中のどこにでもある家族争議に置き換わった。父娘の大喧嘩にテレビの視聴者は釘付けになった。