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ロペス、パットン、石川雄洋……ベイスターズをひとつにしてくれた選手たちに、ありがとう

文春野球コラム 日本シリーズ2020

2020/11/24

「金網越しに放送席で感じていたカクテル光線よりも、はるかにまばゆいです」

 もし、自分で実況をしなさいと言われたなら多分こんなニュアンスの第一声だったと思います。

 10月30日のベイスターズ対タイガース21回戦、CM出演をさせていただいているご縁で「アソビル1周年スペシャルゲーム」の始球式担当を仰せつかりました。今シーズンはプロ野球開催時に横浜スタジアムのグラウンドには報道関係者が立ち入れないため、およそ1年ぶりの光景です。

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 ベンチにいた宮崎選手と目が合い「え、投げるの? 思い切り打たれたらどうです?」という仕草を送られました。マスクすら外し忘れた緊張のマウンドでは、恐れ多くてプレートは踏めず、投じたボールは戸柱捕手のはるか手前でワンバウンドし、大変なご迷惑を。

始球式にのぞむ筆者

 1万6000人を超える野球ファンとベンチからの優しさあふれる拍手に救われ「申し訳ございません、御恩は放送でお返しさせてください」と誓った一瞬でした。

「ベイスターズはファンも含め暖かいチームだな、いつまでも変わらないで欲しい」と改めて感じました。もちろん去る人も来る人もいて、毎年チームの陣容が変化すると承知しています。だからこそ、普段の取材を通して選手達と交わした言葉は、一期一会、決して忘れません。

優しくて強いオーラを放っていたロペス

 始球式で投じる直前に背中越しで確かな温もりを感じた記憶があります。一塁を守るロペス選手の立ち姿、優しくて強いオーラを放っていました。

「1年契約の自分にとって、年間120試合に減った状況は難しい。だが結果を出す」

 今シーズン開幕前、リモートによる共同取材でロペス選手が発した言葉です。実績とチームからの厚い信頼を幾重にも重ねたロペス選手でさえ、覚悟を持って臨んでいたのかもしれません。

 8月26日にファームでの調整となった際は正直厳しかったと想像します。それでも9月22日に一軍復帰してからの30試合で8本塁打23打点。(オーラを感じさせてくれたその日)10月30日には9回2アウトの場面でタイガースのスアレス投手から同点2ラン。翌31日には日米両方での1000安打をHRで達成、ロペス選手はシーズン前の誓いを守りました。ファンに残してくれた「また、会いましょう」の言葉はきっと、いつか実現するのではと感じています。

ロペス ©文藝春秋

「君も放送席で同じ気持ちになってくれ」とパットン

 パットン投手に伺った言葉は、来日した2017年以降いくつか時系列に並べると、ブルペン全体がレベルアップした過程をたどれます。

 2017年5月「ブルペンは助け合い。チームはファミリー。不調な人がいたら誰かがカバーするのがチーム力。私はアスリートとして常に困難にチャレンジしたい」

 2017年9月「ベイスターズには(前年プレーしワールドシリーズを制した)カブスと似ている雰囲気がある。若い投手が確実に伸びている。ここから先の戦いも変わらず焦らないことが大事」

 2018年4月「ブルペンのメンバーは強くなった。誰かがうまくいかない時に他の人がカバーできている」

 2020年10月27日(通算100ホールド、ヒーローインタビューの壇上で)「優勝は叶わなかったが、残された試合で、強いチームとして戦い終えることが大事」

 来日当時選手会長だった三上投手はもちろん、山﨑投手、三嶋投手、砂田投手と多くの若手の内面にまで良い影響を与えた闘将。次なる活躍の場でも、チームに戦うエネルギーを注入し続けるはずです。

パットン ©文藝春秋

 余談ですが、(前年8月、不本意な投球後、冷蔵庫を殴り骨折した件も含め)微妙な判定の後、すぐに心を落ち着かせる難しさを翌年の春季キャンプで伺ったことがありました。パットン投手は笑顔で「そう、だから僕がマウンドでエキサイトしている時は、君も放送席で同じ気持ちになってくれ」と答えてくれました。

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