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「もう若手ではないので」24歳の清水優心選手は“原点”を思い出せるか

文春野球コラム 日本シリーズ2020

2020/11/26

 職場でもプライベートでも24歳から「自分、もう若くないんで」と言われたら嫌味に思うか心配になるかどちらかである。そしてこう返すだろう。まだ24歳じゃないか、と。でも高卒の野球選手、特にファイターズの選手に「もう若くない」と言われたら、まだ24歳じゃないかとは言い返せない、そのくらい厳しい世界で彼らは生きている。

 これは高卒6年目のシーズンを終えたキャッチャー・清水優心選手のついこの前の言葉なのだ。「もう若手ではないので」。

 去年まで参加していた若い選手の教育が目的のフェニックス・リーグにも今年はもう名前はない。オフの使い方は任せられたということだ、鎌ヶ谷で黙々と秋季練習に励んでいる。その様子からは覚悟を感じる。

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「もう若手ではないので、そんなにチャンスももらえなくなる」

 来年は25歳、プロ7年目を迎える。チャンスを貰う立場ではもうない、任せられるという判断の元、レギュラーとなるのだ。

清水優心

いまでも忘れることが出来ないシーン

 1年目から1軍出場を果たし、着実にキャリアアップしてきた清水選手だったけれど、今年の出場は69試合。昨年が自己最多の98試合だったからぐっと減ったことがわかる。しかもそれは怪我や手術などのどうしようもない事情ではなく、エラー、悪送球、打撃不振……完全に自分の中に理由があった。

 今季の清水選手のプレーで私が一番に思い浮かぶのは、7月14日の札幌ドーム、マリーンズ戦。お互いへの信頼を積み重ねてきた3つ年上の上沢直之投手とのバッテリー。初回に先頭の荻野選手にヒットを許した。俊足の荻野選手は当然セカンドを狙ってくる、その盗塁を阻止しようとした清水選手の送球はなんとマウンドの上沢投手の右肩に当たってしまうのだ。幸いにも上沢投手は交代するまでの症状ではなかったが、結局そのプレーがきっかけとなり先制点を許す。更に、3回にはピンチの際に清水選手の悪送球で得点を許し、試合途中で交代させられてしまった。

 私はいつも試合のスコアを付けながら、自分にしかわからないようなメモを書いている。今回それを見返してみたら、「この前の京セラでも、心配」と書いてある。そうなのだ、前の週の京セラドームでも同じような悪送球があったのだ。

 だからあの日も何か「送球」に対して怖さを感じているような、迷っているようなそんな表情に見えた。交代させられた清水選手はベンチで泣いていた。誰も近寄れないくらいに泣いていた。何度も選手の涙は見てきたけれど、この清水選手の涙は慰めようがなくて、万が一自分がそばにいると想像してもかける言葉なんて何もなくて、だからなのか自分も悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 あの日は結局試合に負けてしまった。そして上沢投手に負けがつく。試合終了の瞬間、ベンチで立ち尽くす清水選手の斜め少し後ろに上沢投手がいた。何かあればいつでも後輩の肩に手をかけられるところに上沢投手はいた。上沢投手は無意識にそこにいたのかもしれないし、少し長めにグラウンドを見つめる清水選手は気づいていなかったかもしれない。でも何だかそのシーンはとても意味があったような感じがして、いまでも忘れることが出来ない。

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