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“さよならマルちゃん” マルティネス投手、ファイターズ最後の登板を見届けて

文春野球コラム 日本シリーズ2020

2020/11/28

「30日、札幌ドーム(オリックス戦)に行くけど、来ない?」

 10月のある日、えのきどいちろうさんからメッセージが入りました。お仕事ではなくプライベート、しかも文春野球コラムの青空百景さんと観戦されるとのこと。せっかくの機会なので「是非ご一緒させてください!」とお願いし、実現することになりました。

 当日、僕だけは仕事の関係で遅れて合流でした。福住駅へ到着した頃はすでに試合開始時間を過ぎていました。少し急ぎ足で歩道橋、そしてドーム前の階段を登ります。

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遅れて札幌ドームへ、気が急(せ)きます。この向こうがスタンド席!! ©ビーバー池田

 球場内のゲートをくぐって光のなかに出ていくとグリーンのフィールドが視界に広がります。息が弾むのは階段を急いだせいでしょうか。それともどんな試合になるだろうかというワクワクでしょうか。うん、後者も結構あると思いますよ。チケットの指定された座席を探しながら、気が急(せ)きます。あ、えのきどさんだ。

遅れて球場に入って、席を探してるときがいちばん気が急(せ)きますねー。 ©ビーバー池田

えのきど「おっ、池ちゃん! さっきね、中田の2点タイムリーで先制したよ」

青空「マルちゃんも良い立ち上がりですよ」

トモノさん「はじめまして、どうぞよろしく!」

 えのきどさんと青空百景さん、それから急に出てきたトモノさんはえのきどさんの顔なじみで、別便で東京から来て合流されたそうでした。東京ハム時代は会社帰りに東京ドーム上層階自由席へ行くとえのきどさんや応援仲間がいつもいて、顔なじみとなっていったとのこと。トモノさんもそんな繋がりだそうです。そういうの良いな~。

僕ビーバーが見てないときに2打点稼いだ中田選手です。打点王おめでとうございます。 ©ビーバー池田

やっぱマル・鶴岡バッテリーだよなぁ

 さてファイターズの先発はマルティネス投手、受けるのは鶴岡捕手。これまでは清水捕手、宇佐見捕手などと組んでいましたが、どうも歯車が噛み合わず成績はいまひとつ。去年まではマルといえば鶴、そんな相思相愛コンビでしたが、今季は初登板以来のようやく2度目のバッテリー。

青空「今季マルちゃんをもっと鶴岡と組ませてたらよかったのに……」

 序盤、調子の良さそうなマルティネス投手を見て、青空さんがそう呟きました。非常にテンポが良く、小気味良いピッチング。サインが出て、すぐ決まり、スッと投げ込んでいきます。追い込んでからも大胆に攻めるピッチングに見えました。やっぱマル・鶴岡バッテリーだよなぁ。

トモノさん「マルちゃん、今日は良いね。最後だし、しっかり頼むよ!」

 最後なんですよ。日程表を見て「あともう何試合しかないんだな」と感じるこの時期。野球のある毎日が終わってしまう名残惜しさとともに、来季のこと、具体的に言うと選手たちの契約のことも考えてしまいます。今季ラスト登板であり、それはもしかすると「日ハム最後の」となる可能性だってあります。マルティネス投手はどうなんでしょうか。もしかしたらですよ、もしかしてもしかしたら、久しぶりの鶴岡選手とのコンビは有終の美を飾らせてあげたいという首脳陣からの心づくしかもしれないな、と感じました。

 球界行く人来る人。プロの世界は毎年入れ替わっていきます。マーティン、ウルフ、メンドーサ、いい投手だったな。セギノール、スレッジ、頼もしかったな。ホフパワー、アルシア、見てて楽しいやつだったな。ライアン・ウィング、誰も見たことなかったな(だって一軍登板ゼロだもの)。ほかにもいろんな選手がいましたね。

 彼らのことを思い出すとき、審判にブチ切れたり、子どもとお立ち台にあがって笑顔を弾けさせたり、三振した悔しさでバットをへし折ったり。真剣な表情でコーチと話してる姿も、ベンチで選手同士談笑する姿なども、彼らのプレーとともに一緒に浮かんできませんか?(ウィングを除く) そして、自分がたまたま観戦に行ったときに活躍したりすると、思い入れもまた一層、ずっと記憶に残る選手になったりしますね。

 マルティネス投手、僕は大好きなんでさよならしたくありません。ファイターズファンならマルちゃんのあのシーンを思い出すことでしょう。来日1年目、中田選手がファールフライをダイビングキャッチのファインプレー。バンザイをしながら駆け寄り、中田選手が少し引くくらいの勢いでハイタッチしたあの姿。まさにマルティネス投手を象徴するシーンでしたね。あんな試合、目の前で見てたら、バンザイして手に持ってたビールこぼしちゃうかもしれません(笑)。あのシーン以外でも、味方野手がファインプレーしたとき、派手なガッツポーズ、拍手、グラブタッチ、身体全体で彼らへの称賛を表現していたのがマルティネス投手だったな、と思います。

マルティネス

このプレーを生で見たことはネタとして美味しい

えのきど「さあ、ここしっかり守ろう!」

 スコアは2-1でリードの5回表、先頭の大城選手にヒットを浴びたところで文春ファイターズ、えのきど監督がそう呟きます。監督ならではの勝負どころの檄でしょう。たしかにこのところのマルティネス投手、5回前後が鬼門となっていました。ここまでわずか2勝と勝ち星に恵まれなかったのもその辺りが影響していたと思います。

 しかしここでワイルドピッチ出ちゃうんですね。ワンバウンドの変化球を鶴岡選手が弾いてしまいます。ランナーが進みます。あとで映像確認すると鶴岡選手はマルティネス投手に向かって「ごめん」って日本語で謝っていました。ソーリーじゃないんだ、まあどっちでもいいよね、大事なのは意思疎通出来ているかどうかだ。宗選手が送りバントで一死三塁。

 続く佐野選手、詰まらせたんですが、前進守備の間を抜けていくセンター前タイムリーヒット。しゃーない、まだ2-2の同点だ、コースヒットだ。ここからが大事だ、しっかり守ろう。そう思いながらの一死一塁、西野選手の打席、マルティネス投手は素早い牽制球で走者の佐野選手を誘い出すことに成功します。

僕ビーバー「ヨッシャ……えっ!?」

 言葉にするとちょっと面倒くさいんですけど説明しますね。牽制で誘い出したまでは良かったんです。一塁清宮選手が走者佐野選手をセカンド方向へ追い、距離が詰まったのでタッチを試みるもギリギリ空振りしてしまいます。タッチされたと勘違いしたのか、なぜか佐野選手はセカンドベース手前で走塁を緩めます。清宮選手はタッチをしていないのでベースに入った平沼選手に緩く送球。しかし平沼選手は目切りが早かったのか落球してしまいます。佐野選手が走塁を緩めたのを見てアウトだと思ったのでしょうかわかりませんが、とにかく結果はセーフ。みんなどうしちゃったの?というランダウンプレー。

えのきど「うわー、しっかり守ろう……」

トモノさん「こいつら……」

青空「登場人物、全部ひどい……」

僕ビーバー「アウトレイジ……いやアウトとれじ……」

 結局セカンドにランナーが残り、続く安達選手が鋭いゴロを二遊間に飛ばします。セカンドの渡邉選手がダイビングも、グラブに当てながら弾いてしまいます、あと一歩及ばす勝ち越しのセンター前タイムリー。嗚呼……。清宮選手が天を仰いでたのが印象的でした。

 しかしこのイニング、ある意味今年のファイターズを象徴するようでしたね。バッテリーエラー、プレー際の緩さ、記録にならないミス、あと一歩が届かない守備。次第にもう「このプレーを生で見たことはネタとして美味しい」とさえ思い始めていました。ゆっくりと、えのきどさんにご馳走になったビールを飲み干します。嗚呼……。試合は苦いけどビールは美味しいなぁ。

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