文春オンライン

「赤旗のスクープで交渉の余地がなくなった」日本学術会議問題を佐藤優はどう見た?

note

 いわゆる「日本学術会議問題」が紛糾している。だが、そもそも何が問題になっているのだろうか。

〈「政府の一連の対応は、学問の自由に対する介入だ」という批判がなされていますが、もともと菅政権にそこまでの意図はなかったと私は見ています。しかし、この諍いが続くことで、結果的に「学問の自由に対する介入」が本当に起きてしまうかもしれない〉

 こう危惧するのは、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏だ。

ADVERTISEMENT

官邸中枢にとっては“もらい事故”だった?

 佐藤氏の見るところでは、今回の問題は、「高度な政治意思」(=意図的)というより、さまざまな「偶然」が複雑に絡み合って生じている。

 この問題を解きほぐすために、まず官邸中枢での「決裁」の日常業務について、佐藤氏はこう指摘する。

日本学術会議の梶田隆章会長 ©時事通信社

〈小渕内閣時代に、鈴木宗男官房副長官の横で、首相に上げる膨大な決裁書を決裁する場に何度も立ち会ったことがあります。秘書官などが「(人事について)これで問題ありません」「全員は認めていません」「(予算を)少し減らしています」と小声で耳打ちするだけで、政治家が特段の関心を持っている案件以外は、詳細な説明なしに、そのまま決裁が通ります。(略)今回、菅首相も、上げられてきた人事決裁案をさしたる問題意識ももたずに決裁してしまったのでしょう。(略)官邸中枢にとっては、おそらく“もらい事故”という感覚ではないか〉

情報官僚の日常業務

 そして、行政の中枢(官邸)の意図とは別に、主要なアクターとして、「情報を扱う官僚」(警備公安担当の警察官僚だけでなく、法務官僚、外務官僚、防衛官僚のうち情報部門への勤務経験がある者)が存在するという。

〈人文社会科学の学知が何たるかを理解しないままに、日常業務として、新聞、メディア、インターネット上での発言をチェックしている課長補佐レベルの官僚が、目障りな学者を大した考えもなしにリストに載せたのではないか。野間宏の小説『暗い絵』に、マルクスに影響を与えた哲学者、ホイエルバッハを「ホイエルパッパ」と言い間違える戦前の特高警察について、「概してホイエルパッパと言うような奴は、頭は余りよろしくないね」という話が出てきますが、実際、この程度の知識しかない情報官僚もいるのでしょう〉

佐藤優氏

 これに、菅政権の「政治主導」が合流して、“事故”が起きてしまったではないか、というのが佐藤氏の見立てだ。

〈他方で、菅政権としては、公務員の人事に関して、「推薦名簿をそのまま認めない」という点に、漠然とした「政治主導」としての意味を見出している。

 つまり、一貫した「高度な政治意思」というより、この二つの流れがふわっと結合して、官邸としても、起きてみてから“大変なこと”になってしまった〉