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「オラッ! オラッ! 殺されたいんか?」白昼、公園から罵声が聞こえてきた街の“1泊1200円”宿に泊まってみると……

『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』#1

國友 公司 2020/11/21

「なんや兄ちゃん仕事探しとるんか!?」

 新今宮駅で降りた私はあいりんセンターへと向かった。正式名称は「あいりん労働福祉センター」。まあ簡単にいえばハローワークだ。朝5時になると多くの労働者がその日の仕事を求めて集まるらしく、逃亡中の市橋達也がここで仕事を見つけ、建設会社の寮に潜伏していたというのは有名な話だ。要は健康な身体さえあれば誰でも仕事にありつけるということだ。犯罪者であろうと指名手配犯であろうと関係ない。生きていくにはとにかく仕事をしなくてはならないのだ。

あいりん労働福祉センターはハローワークだけでなく公園のような機能も果たしているが、2019年4月24日に閉鎖され、その機能は高架下にある近隣の施設に移行されている(筆者提供)

「なんや兄ちゃん仕事探しとるんか!?」

 腰の曲がった労働者が顔にツバがかかりそうな勢いで話しかけてきた。顔と顔の距離が異常に近い。歯と歯の間にできた隙間までしっかりと見える。よく見ると歯茎が下に落ち、歯が何本か抜け落ちている。

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警察官に囲まれている住人(筆者提供)

「兄ちゃんのために言うとくけど、4月~6月は仕事まったくないで。無理や。そもそもお前、土木の経験あるんか?」

「穴も掘ったことがありません」

「なんやそれ。そんなん契約型は絶対無理やで。せいぜい現金や」

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あいりんセンターに集う人々(筆者提供)

 日雇い労働の仕事には“現金型”と“契約型”の2つがある。

 現金型は1日働いてその分の給料を手渡しでもらえるが、継続的な仕事の保証はない。住む場所も飯も自分で手配することになる。契約型は10日・15日・30日の契約期間が一般的で、共益費として3000円ほどを毎日支払うことで飯場と呼ばれる会社の寮に入ることができる。飯場に入った労働者たちはそこで寝泊まりしながら、朝になると乗り合わせのバンなどでそれぞれ担当の現場へと向かう。多くの飯場が個室を用意しており、飯も3食出してくれる。ネットでよく見る話だとタコ部屋と呼ばれる場所だ。