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連載近田春夫の考えるヒット

映画『罪の声』主題歌 Uruの本質は「日本のニューミュージック」――近田春夫の考えるヒット

2020/11/18

『振り子』(Uru)/『Traveler』(SUPER JUNIOR-K.R.Y.)

絵=安斎 肇

 Uruの『振り子』は、ご存知『グリコ森永事件』に題材を求めたベストセラー小説の映画化で話題となっている、『罪の声』の主題歌である。

 Uruは年齢などは公表しないと聞いてたのに、ネット上にはちゃんと出てたぁ(笑)。

 それはともかく『振り子』を聴き、先ず思ったのは、このタイプの音の本質は、'70年代からさほど変わっていないということだ。いわゆるニューミュージックてぇヤツである。正確に書けば“日本のニューミュージック”だね。

振り子/Uru(Sony Music)16年にメジャーデビューしたシンガーソングライター。木村拓哉のソロアルバムにも楽曲を提供している。

 それがどういう音楽なのか、私なりに定義をすれば、そもそもは、きっとビートルズだ。そしてその出現に色々影響を受けた英語圏のシーンというものがあった。そのなかでも割とアピアランス的に地味な人たち(エルトン・ジョンなど)が案外ヒット曲を出すようになり、おそらくそこいら辺から、一定の質感を持った音楽が「ニューミュージック」と称されジャンル化されたのだと思うが、それが日本に入って来て、独自の発展を遂げることになる。

 つまり、作曲傾向はそのままに、そこに日本的な、要するに歌謡曲的な感傷を帯びた歌詞をのせるというスタイルが、自然と定着していった。私の考える“日本のニューミュージック”とは、以上である。

 巷ではそれを“フォーク歌謡”と呼ぶこともある。

 この『振り子』にしても、旋律、和声、或いはアレンジなどなど、譜面的に見れば、'70年代のヤマハとかのソングコンテストに応募されるような音楽と、さほど違いはないのだけれど、だが、やはりコレは今の時代の表現だよなぁ、と思わされる部分もある。

 そのひとつは、いわゆるサウンドスケープである。たとえば、パッドと呼ばれる音が減衰しないストリングス系のシンセ。この、ここでの人工的で幻想的な空間の広がりは、ディレイ、リバーブといったエフェクターの性能、そしてその用い方の目覚ましい進歩の賜といってもいいが、こうした、実体のない、すなわちナマの楽器では実現し得ないような音響が、楽曲の景色/イメージを広げるのに決定的な力を発揮することは、昔はなかった。

 もうひとつはコトバである。jpopの歌詞の根本には今も変わらぬニューミュージック以来の心情のあり方を感ずるとはいっても、その発露といおうか、そこで歌われる悲しみは、随分と様相も変わった。

『振り子』に描かれたのは、いうなれば“絶対的な孤独”だろう。そうしたヘヴィな設定は、そもそも“日本のニューミュージック”には見られなかったものなのである。

 とはいえそれでもここにニューミュージックの系譜を感ぜずにおれぬのは、そんなハードな状況に置かれた主人公の心情の向かうところにも結局“自己憐憫”の匂いのしっかりとすることだ。jpopにも“感傷”は健在なのである。

Traveler/SUPER JUNIOR-K.R.Y.(avex trax)SUPER JUNIORのボーカル3名(キュヒョン、リョウク、イェソン)で構成された派生ユニット。

 SUPER JUNIOR-K.R.Y.。

 ここまで隙のない作りをされるとちょっと息が詰まるね。

今週の1本「税制改正で第三のビールが値上がりしたじゃない? 普通のビールと大して値段が変わらないから、久々にアサヒスーパードライを買ってみたんだけどさ」と近田春夫氏。「アルミ缶の素材がベコベコの薄いものになっていてビックリしたよ。世の中、知らぬ間に進歩しているんだなァ。しみじみとビール1本空けました。大変おいしかったです」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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