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連載名画レントゲン

クリムトの名画の「2つの異なるタッチ」…でも不思議となじんで見えるワケ

グスタフ・クリムト『オイゲニア・プリマフェージの肖像』(1913/14年)

2020/12/02

 黄金色にも見える鮮やかな黄色を基調とした背景に、とりどりの花をあしらったドレスを着た女性の姿は、花柄の壁紙から顔と手だけを出したようでもあり、菊人形のようでもあります。

絵画名:オイゲニア・プリマフェージの肖像/画家名:ダスタフ・クリムト/制作年代:1913-14年/画材:油彩・カンヴァス/豊田市美術館所蔵

 このように、肌の部分は陰影をつけて立体的に描き、洋服や背景が平面的な模様状になっているのが、クリムトの特徴と言っていいでしょう。

 この時代の芸術を支援したのは王侯貴族ではなく、裕福な実業家たち。この絵のモデルも、彼の有力なパトロンであった銀行家の妻で元女優のオイゲニア。

 19世紀末から20世紀初頭にかけては、それまで脇役だった「装飾」が主役になった時代。フランスでは「アール・ヌーボー」、オーストリア・ウィーンでは「分離派」と呼ばれます。クリムトは分離派のリーダーで、次世代のエゴン・シーレやオスカー・ココシュカらを応援した存在。

 自然の形態や、様々な文化のモチーフに目が向けられ、当代の作品に取り入れられていきました。中世の芸術が見直され、日本を含む東洋の美術にも関心が高まり、クリムトもその影響を受けたと言われています。確かに、この絵の背景や洋服の模様は東方キリスト教世界のモザイク画のようでもあり、右上の鳥のようなモチーフも東洋っぽい。

 2つの異なるタッチの組み合わせは、モデルの顔を浮き上がらせ、かつ画面全体を華やかにするのですが、不思議となじんで見えます。というのも、肌の部分にも模様と似た筆のタッチを残して全体のテクスチャと揃え、目や首元の影に背景と同じ緑色を配し、頬をバラ色にすることで模様部分の色みと調和させているからです。

 この絵の構図は、垂直線を軸にしていて、前回扱ったミレーの「種をまく人」が対角線を軸にしていたのと比較すると、静止した印象を受けます。そして垂直線を軸にした絵には、バランスをとるために必ずそれを支える水平線が見つかるものなのですが、さて、どこにあるでしょう?

 まず、顔の後ろの水平に延びるカマボコ状の部分と、鳥の絵の下端がそう。そして、背景の手首から下にあたる部分に花模様の描きこみが集中していて図で示す通り水平線を形成していますね。

垂直線を軸にした構図は、静止の印象を与える

 絵は三角形にまとめると安定すると聞いたことがあるかもしれません。クリムトの他の肖像画の多くが、オイゲニアの娘をモデルにした作品も含め、そのスタイルをとっています。雪だるまの下の玉が大きいと安定するのと同じ原理です。

 三角形でなくても、画面の両サイドに何らかの形で繋げることでもバランスがとれます。この絵の場合、モデルが縦長の画面に直立しているだけなので、画面下部に描きこみを「足す」ことで、主役を両サイドに繋いで固定し、下部が見た目の上で「重く」安定するようになっているのです。

 試しに、オイゲニアの背景の下部分を隠してみましょう。ちょっと物足りなく不安定に感じませんか?

INFORMATION

「VISION」(常設展)
豊田市美術館 ~12月13日
https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/vision_distance/​

●美術館の開催予定等は変更になる場合があります。ご来館前にHPなどでご確認ください。

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