文春オンライン

連載この鉄道がすごい

リニア中央新幹線の乗り心地は「浮く」のか「沈む」のか?

都市に直結、地を這う航空機の「未来」

2020/11/29

 リニア中央新幹線は「浮く」か「沈む」か?

 開業できるかできないか、という話ではない。乗り心地の話だ。

 リニア中央新幹線は磁力で浮上する。ただし、停車中と低速時はゴムタイヤで走行する。これは飛行機と同じ。空高く飛ばないけれど、走行中の車体は空中を飛んでいる。そこで疑問が生じる。発車して、低速走行から浮上走行に切り替わり、車輪は車体に格納される。つまり地上からの支持力を失う。その瞬間はどんな挙動だろう。ふわっと浮くか、それとも車体の重みでちょっと沈むか……。

ADVERTISEMENT

実験線を走行中のL0系、笛吹市の花鳥山一本杉公園にリニア撮影用の展望台がある

 答えは「どちらでもない」。航空機のような高揚感もなく、地面に這いつくばるような高度低下もない。タイヤ走行時の音が消え、風切り音が増える程度。そして列車は速度をどんどん上げて、最高時速500km/hに達する。それでも乗り心地としては時速約300km/hの新幹線と変わらない。騒音は新幹線よりちょっと高く、航空機と同レベルだ。隣の席と会話できるし、前後の席の話し声も判別できる。

時速500km/hで「普通」が凄い

 あまりにも普通で拍子抜けした。リニア中央新幹線「らしさ」とはなにか。いや、そもそも私はリニア中央新幹線に何を求めていたのだろう。もっと未来感に満ちた「新しい体験」があると思っていた。しばらくして「普通」であることの凄さを理解した。地上で、時速500km/hで、新幹線と同じ乗り心地。これがすごいことだった。

 リニア中央新幹線が品川~名古屋間で営業運転を開始したら、このスピードでホットコーヒーを飲み、駅弁を食べ、ビールを飲んでくつろげる。約40分では熟睡する時間はないけれど、居眠りはできる。ただし、それは音速に近い航空機でもできることだ。

L0系950番台先頭車車内 天井は膜素材

 リニア中央新幹線は鉄道というより、航空機に近い乗りものだ。減速し、車輪走行に移るときのショックと減速感も飛行機と同じ。気圧の変化で耳ツンっぽくなるところも。

 ただし、航空機に対して圧倒的に優位なところがある。巨大な滑走路も不要だから、都市の真ん中で発着できる。もともと地上の軌道を走るから墜落しないし、従来の鉄道と同じ運行システムを採用したから追突も衝突もない。したがって、シートベルトが要らない。この開放感はありがたい。

 最新技術を使っているのに、新しさを感じない。先進技術はこうでなくちゃ普及しない。2015年、リニア中央新幹線山梨実験線で開催された一般試乗会に参加したときの感想だった。