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セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月

セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月

セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2

2020/12/06
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 今年11月13日、滋賀県にある社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏が、2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた。原告は、北岡氏から性暴力を振るわれ、10年以上にわたりセクハラとパワハラの被害を受け続けたと告発したのだ。

 今回の件が新聞各紙等で大きく報じられた理由のひとつには、北岡氏が障害者福祉の世界では「天皇」と呼ばれており、社会福祉の業界でその名前を知らない者はいない存在だということがある。そして、ハラスメントの被害の大きさもさることながら、加えて問題となったのは、なぜこれほど長い期間にわたるセクハラ・パワハラの事案が表に出てこなかったのかということだ。

 どうして北岡氏は、福祉の世界でそれほどまでに圧倒的な権力を持つことができたのか。その背景には、有力政治家たちとの蜜月関係があった――。(#1から続く)

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 この日、質疑の最前線に居並ぶ厚生労働大臣ら大臣。

 その背後に控える大勢の厚生労働官僚の事務方はいずれも神妙な面持ちだった。これからどんな質問が飛び出すのか、と戦々恐々としている風にも見えた。

厚労委員会で取り上げられた“福祉のドン”の疑惑

 2020年11月27日。

 とうとう衆議院厚生労働委員会で滋賀県近江八幡市の社会福祉法人「グロー」理事長・北岡氏による性暴力、セクハラ・パワハラの疑惑が取り上げられた。

“障害者福祉のドン”北岡賢剛氏 「グロー」ホームページより

 原告の1人、北岡氏が理事を務めていた「愛成会」の幹部であるAさんはこう振り返る。

「仕事だから飲み会への参加は絶対、電話には3コール以内に出ろと罵倒されました。北岡の指示に従わないと会議に呼ばれなくなったり、意図的に仕事を外されました。組織内における北岡の権力は絶対で、それに刃向かうことなど考えられませんでした」

 パワハラと並行して日常的なセクハラも続いたという。

 仕事でタクシーに乗ると、北岡氏はAさんのおしりの下に手を突っ込んで触った。「やめてください」と拒絶すると、北岡氏はニヤニヤしながらその指を性的に動かす仕草をしてみせた。また、日常的に卑猥な言葉を綴ったセクハラメールも送られてきたという。

北岡氏がAさんに送ったセクハラメールの一部。「抱き上げ」はセックスの隠語だという

 

北岡氏がAさんに送ったセクハラメールの一部。その被害は10年以上に渡った

 決定打となったのは、懇親会での“レイプ未遂”事件だ。

 その晩、Aさんは仕事関係者数人との懇親会に呼び出された。普段はビールしか飲まないが、この日は北岡氏にビール以外のお酒をちゃんぽんで飲むように勧められ、泥酔。気づいたときには北岡氏の部屋のベッドに運ばれていたという。

 生理中だったためレイプはかろうじて免れたと言うが、「自分に起きたことを受け止められず、誰にも言えなくて放心状態でした。屈辱的な気持ちになり、ずっと家の床に転がって泣き続けました」という彼女が心に負った傷はいかほどのものだっただろうか。

 委員会とはいえ国政調査権をも有する国会で、この疑惑が審議される意味は大きい。本件が単なる一地方の社会福祉法人の代表の不祥事に止まらない根深さを物語っている。